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「うわあああああん!総悟おおおおっ」

仕事の合間を縫って昼寝をしていた総悟の耳にけたたましい悲鳴が届いた。その、まるでサイレンのようなNo nameの悲鳴に総悟は思わず眉をひそめ、着けていたアイマスクを少しずらしてNo nameを軽く睨んだ。

「…うるさいったらねェや。…何でェ、いきなり」

「聞いてよっ!あのね」

総悟はため息をついて、寝転がったままの体勢でNo nameの方を見た。No nameのなんとなく暗い表情を見ていると、総悟はNo nameの言わんとすることがなんとなく分かった気がした。

「…あァ、土方さんと何かあったんですねィ」

「えっ」

「…。…どうして分かったの?とか…愚問なんで聞かねェでくだせェ。日頃からNo nameの話聞いてりゃ容易に予想できるんでィ」

「…!」

「…で?今回はどんな嬉しいことがあったんですかィ?」

総悟は少し言葉に嫌味を込めて「今回は」のところに力をいれて言った。

「…逆よ」

「何だって?」

「だから逆っ!…嬉しいことなんて何も起こらなかったっ!」

「……?」

No nameの言っている意味が分からず、総悟がきょとんとしていると、No nameが投げやりに吐き捨てた。

「だからっ!フラれたのっ」

「……。…へェ、ついに土方さんに告ったってわけですかィ」

「そうよ!そしたら副長…『お前みたいなガキは俺じゃなくて総悟くらいがお似合いなんだよ。だから諦めるんだな』とかなんとか……」

「それは気に食わねェや…なんでNo nameと土方さんの話の中に俺の名前が出てくるんでェ」

「知らないわよ!あぁもうっ最悪」

「なんでェ…フラれた割には随分元気いいんじゃねェんですかィ?」

「だって…こうでもして感情爆発させてないと泣きたくなるんだもん」

あくまでも強気にそう言うNo nameに、総悟は呆れたようにため息をついて体を起こし、No nameの方へ体を向けて胡坐をかく体勢をとる。

「別に泣きたいんなら泣けばいいんじゃねェんですかィ?意固地になる必要もねェ」

「やーよ!総悟に泣いてるところなんて見られたくないっ」

「…どういう差別ですかィ、そりゃァ」

「だって私が泣いたりしたら総悟、絶対バカにするでしょっ」

「…そう思うんなら、なんで俺んとこに愚痴りに来たんでさァ」

「総悟以外に誰に愚痴ればいいのよっ」

あまりにも矛盾しているNo nameの言葉に、総悟はどう反論しようか考えているさ中にふとNo nameの顔を見ると、かすかにNo nameの目元が潤んでいた。

「…。…面倒くせェったらねェや」

総悟は呟くようにそう言って立ち上がり、部屋を出て行こうとする。


「…総悟…どこ行くの?」

「誰かさんが俺に涙見られたくねェってんで、一人にしてやろうと思ってねェ」

「総悟っ!待ってっ」

「…今度はなんでェ」

「嘘っ!さっきの撤回するから…!…行かないでっ」

「……」

総悟は大きく息を吐いて、開きかけたふすまの戸を閉めた。

「俺に泣いてるとこ見られたくなかったんじゃねェんですかィ」

「だから今一人になるなら、総悟に涙見られてバカにされた方がずっといい…っ!」

「どういう理屈でェ、そりゃ…」

「…いいのっ!いいからっ…!…だから…お願いだから…そばにいて…」

No nameが叫んだその言葉が引き金になったのか、ついにNo nameの瞳から涙が溢れだした。

「あーぁ、泣いちまったぜィ」

「…バカにすればいいでしょ…」

「…そうしてほしいならしてやりやすけど…残念ながら、その期待には応えられねェや」

「…え」

総悟は、そう言うと泣きじゃくっているNo nameの腕を自分の元へ引き寄せた。

「目の前で泣いてる女を罵るほど、俺はSじゃねェんでさァ」

「…嘘ばっかり…」

「本当のことでさァ。…ま、人は選びやすけどねィ」

「…バカみたい」

No nameの言葉に、総悟は諭すように続けた。

「…そうやってすぐ言い返したり、泣き喚いたりするから土方さんにガキ扱いされるんだろィ」

「うるさい…っ!…っていうか今ようやく忘れかけてたのになんで副長の名前出すかなぁ…もうっ」

「文句を言うのは最後まで聞いてからにしてくだせェ」

土方という言葉に眉をひそめるNo nameに総悟は囁くように言った。


「…何を?」


「だから…土方さんじゃなくて、最初から俺にしとけば泣くこともなかったのにってことでさァ」



(…どうして今そういうこと言うのよっ)
(落ち込んでる時に仕掛けた方が俺の成功率があがるだろィ)
(…打算的)
(何言ってんでさァ。じゃねーと聞きたくもねェNo nameと土方さんのノロケ話なんて聞きやせんよ)








((2013.01.24))

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