text.41〜

68
1ページ/1ページ

「…帰りたくないなぁ」

銀時とNo nameは二人で並んで夜道を歩いていた。
時刻は夜11時前。季節は冬まっただ中で、No nameが呟いた一言は白い吐息となって冬の寒空の中へ消えていった。銀時はNo nameの吐息にかぶせるように自身も小さく息を吐き、No nameの方へ振り返った。
No nameは銀時の顔を見ようとはせず、俯いたままで銀時の着ている着物の裾を少し掴んでいた。
銀時はそんなNo nameに対して少し身体が熱くなるのを感じたが、あくまでも感情を押し殺してそっけなさ気に答えた。

「…んなこと言っても終電の時間があるんだからしょうがねェだろ」

「…そうだね」

そう言うとNo nameは大きく息を吐き、続けて言った。

「…銀さんと一緒にいると時間の経過が早くて困っちゃう」

「あァ?」

「一緒にいる間は楽しくて幸せだから…その分帰るとなると無性に寂しくなる」

「だから?」

「…もうちょっと一緒にいたいなって」

そのNo nameの言葉に、銀時は歩いていた足を止め、軽くNo nameを睨みつけた。

「…あんまり俺を誘惑すんな」

─余計に帰したくなくなるだろうが。

銀時は喉元まで出かかったその言葉をぐっと飲み込んだ。再び身体がカッと熱くなってくる。しかしNo nameはそんな銀時のことなど気にも留めていないようで少し吹き出しながら言った。

「誘惑するつもりなんてないよ。心底そう思ってる」

「じゃあアレだ、のみすぎたんだな?さっき」

「銀さん、照れてるの?」

「照れてねーよ、何言ってんだお前」

「照れてるんだね」

尚もクスクスと笑うNo nameに銀時は「うるせーよ」とながら、照れを隠すようにすっかり冷たくなったNo nameの小さな手を掴んで駅までの道を歩き出した。

*

「送ってくれてありがとう」

改札前になってNo nameが隣りにいる銀時に向かってそう言うと、唐突に銀時は繋いでいたNo nameの手を離した。

「銀さん…?」

「ちょっと待ってな」

そう言うと銀時は券売機の方へ向って歩き、No nameの自宅のある最寄駅の切符を購入した。

「ちょっと、銀さん…何して…」

「何って…お前を家まで送ってくんだけど」

「えっ…え…!?」

銀時の言ってる意味が分からないのか、No nameはあたふたし始める。銀時はそんなNo nameを横目に「行くぞ」と強引にNo nameの手を引いて改札を抜けた。
電車に乗り込むと終電なのにも関わらず、混んでいた。銀時は仕方なく扉近くにNo nameを誘導した。
ようやく落ち着いたところで、No nameは銀時の顔を見上げて言った。

「銀さん…なんでこっちの電車乗っちゃって…」

「だからさっき言っただろ?No nameを送っていくんだよ、家まで」

「そうじゃなくて…!この電車、終電だから…銀さんが帰る手段がなくなっちゃう…」

「そんなもん、どうにでもできるだろ。…それに…」

「何?」

「一緒にいたいつったのは誰だっけか?」

銀時が少し笑いながらNo nameの耳元で囁くようにそう言うと、No nameの頬が見る見るうちに赤く染まった。
そして、No nameはその赤くなった顔を隠すように銀時の胸に顔を埋めて言った。

「銀さんのバカ」

「あれ、No name。照れてんの?」

「照れてないっ!」

「んじゃー顔見せろよ」

「嫌だ!」

「なんだ、やっぱ照れてんじゃねェか」

「照れてないって言ってるのにっ!…銀さんの意地悪っ」

尚も顔を埋めたままそう言うNo nameを銀時はふっと笑いながら見つめていた。

それからしばらくして、銀時があたりを見渡すと混んでいた車内の乗客はいつの間にかほとんど下車しており、一つの車両に自分たちを含めて数えるほどしか乗っていなかった。
銀時は空いている席にNo nameを連れて座ろうとするが、No nameの身体に力が入っていないことに気がついた。

「いい加減離れないと苦しいんじゃねェの?」

「……」

「おい…No name…?」

「……」

しかし、銀時が何度呼んでもNo nameは答えなかった。いい加減、No nameを不審に思った銀時はNo nameの頭に自分の顔を近づけた。
すると、微妙にNo nameの肩が上下している。

「なんだ…寝てんのか…」

銀時は、仕方なくNo nameを支えるようにしてその場に立っていると、No nameの小さな寝息が銀時の耳に届いてきた。
自分の胸元で寝息を立てている無防備なNo nameを銀時はどうしようもなく愛おしく感じた。

「……」

銀時は大きく息を吐き、No nameの身体を支える手にそっと力を込めた。








((2012.12.27))

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ