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「No nameー」

「んー?」

居間にあるソファの片方で、仰向けになりながらジャンプを読んでいる銀時のけだるそうな呼びかけに、もう片方のソファでうつ伏せになりながら雑誌をめくるNo nameも同じようなけだるそうな声で応答する。

「飯ィー」

「んー」

「……」

「……」

おおよそ会話とは呼べないような会話が続いた後、しばしの沈黙が続く。やがて、その沈黙に耐えられなくなったのか、銀時の方が先に口を開いた。

「いや、違くね?」

「何が?」

「何が?…じゃねェよ。よく見ろ!この状況」

「…だから何…」

No nameは面倒くさそうに身体を起こし、銀時の方を見つめた。

「どうみても妙齢の男女の過ごし方じゃねェよな?コレ」

「…そう?たまにはこういうのもありだと思うけど…」

「たまじゃねェからつっこんでんだよ!」

「えー…」

「えーじゃねェ!つーか!ぐーたらなやつがこれ以上増えたら新八が一人で捌ききれなくなるだろーが!」

「何それ…意味分かんないんだけど」

No nameが銀時をにらみつけるようにそう言うと、銀時は呆れたように溜息をついた。

「…とにかく、飯頼むわ。腹減って背中と腹がくっついちまう」

「面倒くさい。…っていうか私は別に空腹でもないから、腹減ってんなら銀さんが自分でやれば?」

「なんで俺が作るんだよ!おかしいだろ!?…つーかいい年した女が“腹減った”とか言うんじゃねェ!」

「…じゃあなんで私がしないといけないのよ?その方がおかしいでしょ。それに口調まで正される覚えはありません。っていうか悪かったわね、品のない女で」

「No name…いい加減にしろよ?」

「…どう加減すればいいのか分かんないんだけど…っていうか銀さん、私がこんな女なの知ってるでしょ?」

「…あァ…知ってるよ」

銀時はそういうと大きく息を吐きだして、続けて言った。

「…んで、改めてなんでお前みたいなバカ女を好きになったのか、自分で自分が分からねェ」

「そっくりそのまま返してやるわ。…私もなんで銀さんみたいな、ただのダメ人間好きになったのか全く分かんない」

No nameの言葉に、銀時は顔をしかめ片眉を吊り上げながらNo nameをにらみつけた。

「ダメ人間ってどういうことだよ」

そう聞き返した銀時にNo nameも同じように返答した。

「そのままの意味。っていうか…銀さんこそバカ女って何よそれ」

「…別に深い意味はねェよ」

「だったら私も深い意味はないわ」

「……」

「……」


またもしばしの沈黙が続いた。そして今度は二人同時に溜息をついた。
二人はなんとなしに視線を外していたが、銀時の方がNo nameの方へ向き直った。

「…お前みたいな女と結婚したら大変なことになるんだろうなァ」

銀時がしみじみとそういうと、No nameは眉をひそめた。

「…何よいきなり」

「別に。ふとそう思っただけだよ」

「ふぅん…でも確かに毎日毎食ご飯作るとか考えられないわぁ…ま、それ以前に…ご飯作る食材を買えるかさえ疑問だけどね」

「あァ?」

「だって、銀さんみたいなバカ亭主をもらっちゃったら、ちゃんと稼いでくれるかどうかってことから心配しなきゃだめだもん」

「バカ亭主で悪かったなァ…つーかたとえ稼いだとしてもそれで飯作んなかったら一緒だろーが!」

「…まぁでも女は結婚したら変わるって言うよ?私も銀さんが驚くくらい家事業が上達したりしてね」

「No nameに限ってそれはねェよ。つーかいけしゃあしゃあとよくもまぁそんなこと言えるな?」

間髪いれずにきっぱり銀時は言いきった。

「…ちょっと…失礼にもほどがあるんじゃないの、それ?!そんなの分かんないじゃない!」

「…分かるよ。何年お前と一緒にいると思ってんだよ」

「…そこまでめちゃめちゃに言う女をよくもまぁ側に置いておこうと思うよね?」

「しょーがねェだろ?お前みたいなやつ、俺が放っといたらあとは干からびるだけじゃねェか」

「サボテンか!私はッ!」

「おー!よくわかってんじゃねェか。棘があって扱いにくいところとかそっくりだよなァ」

「誰がうまいこと言えと!?」

No nameのツッコミに銀時は何が面白いのか膝を叩きながら、尚も笑い続けている。

No nameはなんだか口げんかに負けた気がして、少々癪に思ったが仕方なく立ち上がり、「…何がそんなに面白いんだか…バカみたい…」と言い捨ててキッチンの方へ歩き出した。
そんなNo nameの後ろ姿を見ながら、ようやく笑いが引いた銀時は今度はふっと笑顔を浮かべながら呟いた。


「…そのバカの側にいるお前も相当バカだよ」

銀時が言ったその言葉が聞き取れなかったのか、No nameはキッチンに入りかけた足を一旦止め振り返った。

「…なんか言った?」

「言ってねーよ、なーんも」

「…ふーん?」

意味深な表情をする銀時をNo nameは訝しい視線で見つめた。

*

「ねぇ」

「んー?」

「さっきなんて言ったの?」

「あ?何の話?」

「私がキッチンに行こうとした時、小声で何か言ってなかった?」

「言ってねーよ」

あくまでもとぼけたふりをしてそういう銀時をNo nameは横目で睨みつけて言った。

「嘘でしょ」

「…あー…まァ確かに?言うのは言ったけど」

「やっぱり……」

銀時の言葉にNo nameは思った通りだと言わんばかりの溜息をついて、続けて言った。

「…で?なんて言ったの?」

一向に引きさがろうとしないNo nameを見つめて、銀時は大きく息を吐き、真顔で言った。

「…人のことバカ亭主扱いするバカ嫁には教えてあげません」

「え…よ、嫁…?」

あまりにさらりと言ってのけた銀時にNo nameは目を大きく見開いて返した。

「そうだよ?嫁。…何びっくりしてんだよ。亭主に嫁は付き物でしょーが。つーか、俺のこと亭主って言い始めたのお前が先だろ」

「いや…まぁそうなんだけど…あれは単なる話の流れ…というか場の勢いというか…」

No nameがそういうと、銀時の表情は見る見るうちに険しくなった。

「…じゃあ何?No nameは俺が亭主なのが気に食わないわけ?」

「誰もそうは言ってないんですがっ!っていうか今その話関係なくない!?」

「関係なくはねェよ。いい加減付き合い長いんだがらそういうことも考えてやんねェと、干からびかけのサボテンが完全に枯れちまう」

「…まだ人のことサボテン扱いするわけ…?」

「…まぁでも…その枯れかけのサボテンも中身はこんなんだから?今更誰かにもらってもらうのも無理な話だし…?」

「…聞いてないし。ってか!銀さん!いったい何の話を…」


「…仕方ねェから、俺がお前をもらってやろうと思うんですが」


銀時が真剣そうな顔をしてそういうと、一瞬虚を突かれた表情をしたNo nameも溜息をついて返した。

「…こんなん、マジで嫁にもらおうとしてる奴の気がしれないわ」

「あァ…俺ァ自分がバカだと自負してる。…でもそのバカな俺の隣から離れられないお前も相当なバカだよ」

「…んじゃ、バカ同士お似合いなのかもね」

「んで?返事は?」

「…言わなくても分かるよね?」



(…つーか)
(ん?)
(普通、こういうこと言ったら女って嬉し泣きしたりするもんじゃねェの?)
(…あら、銀さん。私がそういうタイプの人間に見える?)
(…いや、悪ィ。…言った俺がバカだった…)







((2012.10.25))

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