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「…だからお前は家にいろって言ったじゃねェか」


銀時は寝室で寝込んでいるNo nameを見下ろして言った。

「だって…」

銀時の言葉にNo nameは何か言い返そうとするが、その途中で咳き込んでしまった。

「……」

銀時はそんなNo nameの様子をしばらくじっと見つめたのち、小さくため息をつきその場にしゃがみ込んだ。

*

「んじゃ、ちょっと行ってくらァ」

羽織を手にしてそう言う銀時にNo nameは慌てて声をかけた。

「待って!私も行くっ」

ソファでじっとしていたNo nameが突然立ち上がったので驚いたのか、銀時はぎょっとして振り返った。しかし、すぐに冷静さを取り戻して髪の毛を掻きながらため息をついて言った。

「行くってお前…今朝から風邪気味だって言ってたじゃねェか」

「平気、平気!じっとしてたら…この通りめちゃめちゃ元気になったし」

No nameが鼻の下を指でこすりなら笑顔でそう返すと、銀時は疑わしそうな顔をNo nameに向けて言った。

「…の割には顔色悪いような気がするのは、俺の気のせいか?」

「断じて気のせい!」

「…やめといた方がいいんじゃねェか?今日の仕事、コンビニのバイトの代理だしよォ」

宥めるようにそういう銀時に向かってNo nameは胸を張って言った。

「だからじゃない!私が行かないとロクなことになんないでしょ。それに新八くんだけに銀さんと神楽ちゃんの世話任せたら本当にあの子、禿げちゃう」

「なんだソレ。つーか余計なお世話だよ、コノヤロー」

No nameの言葉に銀時は眉間にしわを寄せてそう答えた。そして、しばらくしてNo nameの言葉に折れたのか、諦めたように「勝手にしろ」と言った。



作業割り当て表によると、業務内容がレジと納品作業と掃除になっていたので、レジには神楽と新八が立ち、銀時が納品作業、No nameは掃除を担当することになった。
No nameは最初のうちは黙々と作業をしていたのだが、妙にけだるいせいか集中力が散漫し、身体にも力が入らない。

しかし、No nameは黙っていた。
銀時の言いつけを聞かず勝手についてきたのだから今更しんどいとは言いだせなかったのだ。
No nameは気を紛らせようと、掃除する手を止めて店内に並んでいるたくさんの商品に目を向けた。コンビニなのだから、ある程度のものは揃っていた。
その中の一点をぼーっと見ていると、視界が途端に揺らいだ。

─…あれ?

ふらついているのだ、ということに気がついた。No nameはモップを握る手に力を込め、その場に踏みとどまった。
そして、何事もなかったかのように作業を開始させようとしたその時、後ろから左腕を掴まれた。驚いて振り返ると、少し険しい顔をした銀時が立っていた。

「ふらついてんじゃねーか」

「銀さん…!」

「本格的に風邪ひいちまったんじゃねェか?」

「ひいてないって!ちょっと自分の足でモップ踏んじゃって、バランス崩しかけただけで」

No nameがおどけてそう言うと、銀時の表情は先ほどよりも見る見るうちに険しくなっていく。

「…お前、それでごまかせると思ってんのか?」

「ごまかすも何も…!本当に大丈夫だから!」

「…。…ぶっ倒れても知らねェからな」

「ご心配なくっ」

No nameは白い歯を出してニヒッと笑いながら、小さく敬礼する体勢を取った。銀時は呆れたようにため息をついてNo nameに背を向けた。

しかし、そんな発言とは裏腹に身体のけだるさは時間が経過するとともに増してきていた。
たまに入るレジ応援で声を出すのが精いっぱいだった。
客足が途絶えたころ、そんなNo nameの様子に新八と神楽も気がついたようで心配そうに顔を覗き込んでくる。

「No name、大丈夫アルか?」

「そうですよ、っていうか顔色も悪いし」

「…冷房効きすぎてるからじゃないかな?ちょっと肌寒いし」

No nameがそう言うと、新八は納得したように頷いて続けた。

「そう言われれば…そうですね、じゃあ僕ちょっと温度あげてきます」

「あ、ありがとう」

そうは言ったものの、徐々に限界が近付いてきているのは自分でもよく分かった。
その証拠に、呼吸も荒くなってくる。

─さっき…大人しく銀さんが言ったこと聞いてればよかったかな…

そんなことを考えていると、No nameはだんだんと自分の気が遠くなっていき、やがて床に倒れこんだ。


*

「…俺の言うことを最初から聞いとかねェからぶっ倒れるんだよ」

No nameが目を覚ますと、第一声にそんなことを言われた。No nameが声のした方へ顔を向けると、そこには銀時が立っていた。

「…だから、お前は家にいろって言ったんじゃねェか」

「だって…」

銀時の言葉にNo nameは何か言い返そうとするが、その途中で咳き込んでしまった。
咳き込むNo nameを遮るように、銀時は寝ているNo nameの隣りに腰を下ろした。

「…だってじゃねェよ。結局No nameがぶっ倒れるから俺がここまで抱きかかえて来たんで、コンビニの方は新八と神楽に任せる羽目になるしよォ」

嫌味ったらしくそう話す銀時にNo nameはおどろいて言葉を遮った。

「…え、銀さんがここまで私を運んでくれたの?」

「…他に誰がいるんだよ」

「だって私が倒れても知らないって言ってたじゃない」

「…目の前でぶっ倒れた女を放っておけるほど薄情な男じゃねェよ、俺は」

「…ありがとう」

「…あんまり、無茶すんな」

「ごめんなさい…」

No nameがそう言うと、銀時は少し視線を逸らしながら言った。

「…謝るんなら、新八と神楽に言ってやれ。あいつらに俺とお前の残りの仕事押し付けてきたから」

「…じゃあ二人が帰ってきたらお礼言わないとなぁ…」

「そうしてやれ。……取りあえず今日はこのまま寝てろ」

そう言うと銀時は、No nameの頭を数回ぽんっと叩き、立ち上がった。

「…銀さん…どっか行っちゃうの?」

「…バーカ。病人置いて家を空けれるかっつーんだ」

「…え」

「…今、なんか作るから待ってろ」

「…それ食べたら…却って体調悪くなりそうなんだけど」

No nameがそう言うと、銀時は眉間にしわを寄せて言った。

「そういう嫌味は元気になってから言うんだな」

No nameはなんだかおかしくなってふっと笑って返した。


「…ありがとう」



(お待たせ)
(って…もうできたの?)
(銀さん特製卵かけご飯でーす!)
(…病人に卵かけご飯…?)
(卵なめんなよ?卵は栄養価高いんだからな?それに粥と大差ねェだろ?)
(……い、いただきます…)





((2012.10.04))

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