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「…んじゃ…俺が送ってってやるよ」

No nameが先に帰ることを告げると、今まで輪の中心に立っていた銀時がそう言った。なんとなく一人で歩きたい気分だったのでその申し出を断ろうとしただが、銀時はそんなことを気にも止めず歩き始めた。

「…あっ、ちょっと…!」

No nameは慌ててその場で輪になって遊んでいた志村姉弟や神楽、長谷川さんといったおなじみのメンバーに別れを告げ、先を歩く銀時の後ろ姿を追った。
そして、皆から姿が見えなくなると銀時は途端に歩調をNo nameに合わせ、何も言わず、走る車からNo nameをかばうように道路側に身を置いた。

「……」

そんな銀時の姿にNo nameはなんだか心がむずがゆくなった。そして“銀さんもこういうことをするんだなぁ”などと考えていた。

何を話そうかNo nameが迷っていると銀時が先手を切った。

「今日は来てくれてサンキューな」

「銀さんこそ、幹事お疲れ様」

「幹事っつーほど大層なことはしてねェけど…ま、サンキュ」

そう言うと銀時は右手で自身の髪の毛を少し掻きながら言った。

「…それより、みんな放っておいて大丈夫なの?」

No nameが首をくるりと後ろの方に向けて銀時にそう問いかけた。

「あァ」

そう言うと銀時も自身の首を後方へ向け、付け足して言った。

「…それにあいつらの場合少し放っておくくらいがちょうどいいんだよ」

「さっきまで輪の中心になって遊んでたのによく言うわね。本当は遊んでたかったでしょ?」

「んなことはねェさ。それに俺にはお前を送っていく義務がある」

「私一人でも全然大丈夫なんだけど」

「大丈夫じゃねェよ、何かあったらどーすんの」

「何かって…今まだお昼なんだけど…」

No nameが照りつける太陽を見上げてそう言うと、銀時は面白くなさそうに続けて言った。

「つくづく可愛くねェ女だなァ…お前」

「あれ?銀さん…私のこと女だと思ってたの?」

No nameが冗談っぽくそう聞き返すと、銀時は大真面目な顔をして言った。

「少なくとも今集まってる連中の中じゃ一番女らしいじゃねェの」

「え」

予想外の返答にNo nameは思わずその場に立ち止まり、隣りを歩く銀時の顔をまじまじと見つめた。

「何。俺変なこと言った?」

「…や、なんていうか。…そんな風に思ってたの?」

「つーか、さっき集まったお前以外のメンバーを女として見ろっつー方が無理難題だっての」

「…お妙が聞いたら、真っ先に鉄拳が飛んできそうな台詞ね」

No nameが含み笑いをしながらそう言うと、銀時もつられながら少し笑った。

「…まぁどういう意味であれ、めったに女扱いされないから、ちょっと嬉しかった。ありがと」

「No nameは自分が思ってるほど男っぽくねェよ」

「どういう意味?」

「…ま、それは周りにいる女があんなのしかいねェからかもしれねェけど。…俺からすれば十分女っぽい」

「…どうしたの、さっきから。そんなに褒めても何も出ないよ?」

「本心だよ。滅多にこういうこと言う機会がないから伝えとく」

銀時が尚も大真面目な顔をしてそう言うので、No nameは体が恥ずかしさで痒くなるのを感じた。
何かを話そうと頭の中で話題を探索するが、妙な恥ずかしさがそれを妨げた。
そんなことを続けていると、見覚えのある道に差し掛かった。来る時に通った道だ。


「…あ、ここ行きしなに通ったね」

「あァ、そうだったな」

「ここからなら道、覚えてるから銀さん戻っていいよ」

No nameがそう言うと、銀時は分かりやすく顔をしかめた。

「…No nameは俺を追い返したいわけ?」

「え……なんで?」

「さっきから、No nameの言動を見てると俺を追い払おうとしてるのが目に見えてる」

No nameは目を見開いた。
自分の恥じらいを隠す態度がこうして銀時に見られているとは思わなかったからだ。
No nameが黙っていると、銀時は追いうちをかけるように言った。

「送らせろって。お前になんかあってからじゃ遅ェんだから」

「……」

銀時の有無を言わせない表情にNo nameはついに折れ、続けて言った。

「…分かった」

「分かればいいんだよ」

No nameがため息をついた。

「…なんか意外だったかも」

「何が?」

「…なんていうか…銀さんってちゃらんぽらんだと思ってたから…こんな俺様っぽい発言すると思わなかったのよ」

「あァ…俺も意外だったな」

「え、じゃあなんで?」

「さァ?でも…目の前にいる相手がNo nameだから、自然とそういう発言になるんだよな」

「……」

「…つーか、こういう発言でもしねェと俺が狙ってるって分かんねェだろ?お前の場合」

「…え」

「…ま、そういうこった」

「……」

「…さてっと」

No nameが答えずにいると銀時は強引に話題を断ち切るように息をはき、言った。
駅に着くまでの間、銀時が次々と話題を振るが、No nameはなんと答えたのかを思い出せずにいた。そんなことよりも体が妙にくすぐったい。
そんなNo nameの態度に気がついたのか、銀時は「大丈夫か?」と言いながら顔を覗き込んできた。
無意識のうちに顔が赤らんでいる。

「だ…大丈夫っ!」

「…なら、いいんだけどよ」

No nameは俯いて唇をかんだ。
言葉一つでこんなに隣りにいる男の存在が気になるとは思わなかったのだ。
しかしそれから、まともな際立った会話をすることもなく二人は駅に到着した。


「んじゃ、そういうことで」

「…あ、うん…」

「気ィつけて帰れよ」

「…うん」

「じゃあな」

「…銀さん…っ」

「ん?」

「…送ってくれてありがと」

「おう!…またな」


そう言うと銀時はくるりとNo nameに背を向け今来た道を歩き出した。
そんな銀時の背中を見ていると、No nameの心は自然と甘酸っぱい気持ちでいっぱいになった。


(今日は銀さんのおかげで楽しかった)
(そう言われると企画した甲斐があった)
(またよかったら誘って)
(真っ先に誘う)
(ありがとう)
(…つーか、次企画する前にまた会おうぜ。…今度は二人で、な?)






((2012.08.30))

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