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「……ふぅ」

No nameは自身の気持ちを落ち着けるために深呼吸を一つし、意を決して目の前の扉にノックをした。

「…失礼します」

No nameが堅く重い扉を開けると、扉を背にした高杉がいた。どうやら煙管を吸っていたようで、口から煙を吐き出した後、No nameの方へ振り返った。

「何の用だ」

「…お茶をお持ちしました」

「そこに置いとけ」

「…あ、はい。分かりました」

No nameは高杉に言われた通り、近くにある机の上に持ってきた湯呑を置こうとするが、緊張が未だ解けないせいか、湯呑を持つ手が震えていた。

「何をそんなにビビってんだ」

「えっ」

「…手、震えてんぞ」

「……あ」

No nameは慌てて湯呑を机の上に置き、置いた手を片方の手で掴んだ。そんなNo nameの様子を横目に、高杉は煙管を手に持ち、少し笑いながら言った。

「…よっぽど俺のことが嫌いらしいなァ」

No nameは高杉のその返答にぎょっとして高杉を見上げた。

「どうしてそういう解釈になるんですかっ!?」

「…じゃあ聞くが、他にどういう解釈の仕方があるんだ?」


高杉にそう聞き返され、No nameは思わず黙り込んでしまった。自分の気持ちとしてはその全く逆なのだが、高杉を目の前にしてとてもだがそんなことを言えるわけがなかった。やがて、ややうつむきがちに続けた。

「…いえ、ありません…すいません」

「なんで謝るんだ」

「…謝った方がいいかと思ったからです」

「俺は別にお前の謝罪を聞こうと言ったわけじゃねェんだがな」

そう言うと高杉は天井を仰ぐように、吸った煙を吐き出した。No nameも同じように天井を見上げた。そしてふと浮かんだ疑問を高杉に投げかけた。

「…ところで、晋助様はどうしてこんなところに一人で籠っていらっしゃるんですか」

「んなこと聞いてどうする」

「…あ、いえ。深い意味は…ただ…私のイメージでは晋助様はずっと…河上様や武市様と一緒に作戦会議を練っておられるものだと思ったので…少し意外だったというか」

No nameが少し声をかすらせながらそう言うと、高杉は鼻で笑いながら言った。

「…その武市と他の連中のやり取りが面倒くせェんでこうしてここにいるんだよ」

「やり取り?」

「…ま、あの面倒くささは実際にその場にいねェとわかんねェさ」

「…晋助様も大変なんですね。…私が言うのも変…というか余計なお世話だとは思いますけど」

No nameが遠慮がちにそう言うと高杉が聞き返した。


「なぜそう思う」

「…晋助様に嫌われているような気がしてならないからです」

No nameがそう言うと、再び高杉はふっと鼻で笑い、No nameの方へ視線を向けて言った。


「…俺はNo nameと違って、お前を好く理由はあっても嫌う理由なんてねェよ」

「……え」

高杉の言葉にNo nameの頬が途端に赤く染まった。

「…どういう意味ですか」

「別に深い意味はねェよ」

あくまでも坦々と答える高杉の言葉に少しショックを受けながらも、先ほどの高杉の言葉に慌てたように言い返した。


「っていうか!わ…っ私は別に…晋助様のことを嫌ってるわけじゃなくて…っ!」

「…なんだ?」

高杉は机に頬杖をつき、立っているNo nameを見上げて聞いた。今まで見たことのない角度から見る高杉に、No nameは急にドキドキしてきた。

「…や…あの……」

No nameは心臓をぎゅっと締め付けられるような感覚がした。今、No nameは高杉の問いに答える立場であるはずなのに、高杉の顔ってこんなに整っていたんだ…などという丸っきり場違いなことを考えていた。

「大丈夫か」

しばらく黙っていたのを不審に思ったのか、高杉が声をかけてきた。No nameはハッとして続けた。

「……あ、やっぱり…なんでもないです!すいませんっ!し…失礼しましたっ」


これ以上高杉と同じ空間に二人きりでいることに耐えられなくなったNo nameは、慌てて部屋を抜け出した。
そんなNo nameの背中を高杉は目を細めて見つめていた。


*

「…で?一瞬いい雰囲気になったのに…それぶち壊して逃げて来たんスか?」

「だってー…」

No nameが部屋に帰るとそれを待ち受けていたかのようにまた子が口を開いた。

「…せっかく私がチャンスメイクしたっていうのに…やっぱり意味なかったんスね」

「しょうがないじゃない…!近くで晋助様を見てあんなに緊張すると思わなかったんだもんっ」

半泣きになりながら頭を抱えてそう言うNo nameにまた子は呆れたように言った。


「…そんなこと言ってるようじゃ…あの晋助様をモノになんて一生できないスね」




(やっぱり、晋助様の方からもっと押してやんないとあのバカは分かんないかもしれないスね)
(…そのようだな)
(ったく…晋助様とNo nameのぬるい関係を傍から見守る役に徹する私の身にもなってくださいよ)
(なに?)
(…面倒くさいんスよ。好きなら好きって言えばいいんじゃないっスか?)






((2012.08.23))

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