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どこからか何かが振動する音が聞こえる。No nameはゆっくりと目を開いた。振動音のする方へ耳を傾けるが、どこから聞こえるかは判断できなかった。今まで眠っていたせいなのか、感覚が鈍っているのかもしれない。
再び閉じてしまいそうになる瞼を必死に開け、No nameは寝ていた布団から抜け出した。
No nameがぐるりと部屋を見渡すと、先ほどまで飲んでいた酒の缶が転がっていた。

「…あー…ヤケ酒して…そのまま寝ちゃったんだっけ…」

No nameがそうつぶやくと、それを証明するかのように、頭がふらついた。まだアルコールが抜けていないせいだろう。

「…とりあえず水…」

ふらつく頭を抱えながら、No nameは水道水を一気に飲み干した。
No nameがしばらくぼーっとしていると、再び振動音が聞こえてきた。No nameは反射的に壁にかかった時計を見ていた。午前3時過ぎだった。

「…誰よ、こんな時間に…非常識にも程があるんだけど」

No nameはため息をひとつついて、手探りで携帯電話を探しだした。

「…もしもし?」

「起きてたのか」

電話から聞こえた声は、No nameをさらに驚かせた。それはこの数日間だけ、遠く離れて暮らしているNo nameの恋人・土方十四郎だったのである。しかし、その驚きを隠すようにNo nameは気持ちをこらえて言った。

「…起きてなきゃ電話になんて出ないと思うけど」

No nameがそう言うと土方が電話越しにため息をつくのが分かった。

「…。…お前なァ…それが心配して電話してやってる彼氏に対する態度か?」

「じゃあもっと他にかける時間帯あったんじゃないの?」

「…あァ、それは悪かったよ」

「…何よ。素直に謝んないでよね、調子狂っちゃうんだけど…。で?こんな夜中に何の用?」

「…なんだよ、用がねェと俺はNo nameに電話しちゃいけねェのか?」

土方のその台詞をNo nameは軽く聞き流し、再び聞いた。

「はいはい…で?何の用?」

「…そっちには慣れたのか」

土方の質問に、No nameは息を大きく吸い込んだ。そして、目の前に転がっている酒の空き缶を見つめた。

「…そうね。まぁ…やけ酒すりゃーなんとかやっていけるレベル…かな」

No nameの返答に土方はふきだしたのか、電話越しに笑うのをこらえるのが伝わってくる。No nameは思わず眉をひそめた。

「…なんで笑うわけ」

「っと…悪ィ。…予想通りだったからよ」

「どういう意味」

「…お前の性格を考慮して…人間関係を類推しても明るい構図は想像できねェ」

「…悪かったわね、人間関係が下手くそで」

「いいよ、謝らなくて。別にそういう意味で言ったんじゃねェ」

「…っていうか…こういう状況を予測できたんなら…私をわざわざ地方まで出張させないでよね」

No nameはその決定を下した土方に嫌味ったらしくそう言った。

「…まぁそう言うな。この件に関しては頭脳と剣の腕が伴っていておまけに冷静沈着に物事を進められるやつじゃねェと通用しねェって近藤さんと話し合って決めたんだよ」

「…こんなときだけ上から目線?」

「…仕方ねェだろ…年は同じでも仕事上は俺の方が立場が上なんだから」

「…まぁいいわ。じゃ、私も部下らしく経過報告させてもらおうかな」

No nameは冗談っぽくそう言った。

「対象の人物に特に目立った動きはなし。…おそらくタレこみの情報通り、本当に攘夷活動からは足を洗ったんだと思われます」

No nameの冗談に土方は少し怒ったように言った。

「…真面目に報告してんじゃねェよ。そんなことは近藤さんから連絡がいったときにしてくれ」

土方のその返答にNo nameはいい加減イラついてきた。お酒が完全に抜けきっていないために頭がふらついているせいもある。そして、何となく先ほどから土方が核心に触れない話し方をしているように感じられたからだ。


「…じゃあ何の用で電話してきたの?さっきまでのくだらないやり取りするために電話してきたわけじゃないでしょ?…それとも何?私がこの環境に慣れないのを笑うため?」

「…おい…怒ってんのか?」

「…怒りたくもなるわよ。…言いたいことはっきり言わないわ、仕事の話したら怒るわ…私にどうしろって言うわけ?」


No nameが少し厳し目の口調でそう尋ねると、土方は観念したように、またどうにでもなれといったように話し始めた。

「…ここ数日で、No nameの重要性を再認識した」

「……はァ?」

「…仕事にもまったく身が入らねェ」

No nameは思わず耳を疑った。

「…鬼の副長ともあろうものが…何言ってるの?」

「…仕方ねェだろ?…お前が近くにいねェんだから」

「…出張命じた本人がよくもまァそんなこと言えるわね」

「だから…そん時はお前がいねェと、まさかこんなに無気力になると思わなかったんだよ」

「ふーん…なるほど」

「あァ?」

「…それで夜中なのにも関わらず、電話してきたってわけ?」

「…うるせーよ」

明らかにふてくされたようにそう言う土方にNo nameは思わずふきだした。

「…何がおかしいんだよ」

「ごめんごめん…さっきのお返し」


No nameがそう言うと、小馬鹿にされたような態度がイラついたのか、土方は舌打ちをした。しかし、やがて諦めたようにため息をひとつついて言った。



「…早く帰って来いよ」



(…土方さん、昨晩No nameに電話してたでしょう)
(あ?してねーよ)
(嘘つかなくていいでさァ…残念ながら俺の耳にはちゃんと届いてたんでィ)
(…なッ)
(…土方さんがあんなこと言うなんてねェ…面白いんでしばらく話のネタに使わせてもらいまさァ)
(てんめッ!総悟ッ!待ちやがれッ)







((2012.08.16))

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