プチ連載

□恩返しは面倒くさい
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「もしかして、帰る気だったんですか」

普通の見方で見れば、そう見えただろう。
普通に見ずとも、自ら穴へ落ちに出向いたようには見えない。

「そうだって言やァ、お前はさっきみてーに止めたか?」

「…………え」


普通に見えてしまったからこそ止めた、とは言えず。けれどライナの口はピタリと止まった。


「恩を返してねーから止めたんだろ、お前はよォ」


他に何の理由があって止めたと思う、なんて逆に聞いてやりたいところであの人は口を開いた
確かに、あの人から見ればそれこそ普通の見方だ。


「そ、そうです。そうですよ!恩返しは始まったばかりじゃないですか!ここからが見せ場ですよ!逃げ場にしてどうするんですか」

だからこそ、普通だと見た方こそ普通じゃないと思わせて「はいそうです」としか言い返せなかった。


「この際言っとくが、オレは逃げたんじゃねーよ」


言い訳、には見えないあの人のいつになく真剣な瞳がこれみよがしとうつる。

「分かってますって、帰る気だったんですよね。それが逃げてると……」


「恩返しから逃げたって言いてーなら逃げたんじゃねーって言ってんだよ」

「……え、と言いますと?」


何が逃げているのか、逃げていないのか。
訳が分からなくなる言い草だ。けれどあの人の何時になく真剣な瞳が見ていられず、目線を逃がした事だけは分かった。


 
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