プチ連載
□高価な「ありがとう」
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静かな朝を迎えたはずなのに、隣で眠るどこかの誰かの耳障りな寝息というものがそれを無かったものにした。
「結局朝に………」
しかも、半身裸体の男なんかと一緒に一つ布団の中で迎えてしまった。
何気に初めて異性と寝たライナにしては、恩知らずも良いところだ。
けれども熱はどうやら、引いたらしい。
人肌の効果が適したのかはさておき。寝起きの割に軽い体のおかげで、ライナの不穏な目覚めは一変した。
「あ、ありがと………」
それがこの人のおかげかはさておき、彼なりに治してあげたい意思は肌一枚を通して伝わったのは事実。
小さくお礼を言ってはみたが、大きな寝息を立てるあの人は爆睡中だ。
無論、その声が伝わる事は無かった。けれどこれで良い。
相手は恩返しに励む人間だ。だからこそここでお礼をしなければ、という価値観がこの人には通用しないのだ。
これではどちらが本末転倒か。
どうせこんなんでは恩返しの内に入らないと、恩のうえに恩を重ねてしまうだろう。
本当にこの人には困ったものだ
ありがとうと言えど、この人はそれを認めない。
幸せの定義は人それぞれ、この価値観を覆すこの人にとっての小さなありがとうは、通用しない。
高価なありがとうを求めるこの人、全く困った人間だ。