プチ連載
□恩返しは関係なく。
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「なァ角都ゥー腹減った」
「さっきから喧しいぞ飛段。お前のしょうもない報告などは要らん」
「だってよ角都ゥ……」
「うるさい、黙れ。腹が空いたというなら家事の一つでも覚えたらどうだ」
「家事?んなもん男がやるもんじゃねーだろばぁーか!」
本当に馬鹿だ。
馬鹿な事だと笑った言葉が、まさか自分に返ってくるなんて。
ふと思い出せば、笑えてきた
「って笑ってる場合じゃねー」
「あ、あの、もう家事は良いですからその辺で大人しく…」
「大人しくすんのはお前だ!病人がうろついてんじゃねーよ」
男がするもんじゃないはずなのに、男の俺が台所に立ち、女のあいつがそれを待ちわびる。
笑えて仕方ない状況だが、笑ってはいられない。
というのもあいつが、風邪なんかを引いたからだ。
「ほら、飯作ってやったぞ」
「あ……ありがとう、ございます」
男が家事なんかをするもんじゃない。
そう言い聞かしてきた自分にとってのこれは、精一杯な恩義にあたる。
もうこれで十分じゃないか、とも思った。
「あ、あの……。本当にもう良いですから私の事は放って、帰っ……」
「まだやる事してねーだろ。スッキリした気分で帰りてーって言ったはずだぜ」
「……そ、そうですか」
そいつは風邪がうつるから、帰れと言ったのかもしれない
恩のうえに恩を重ねるこいつに十分な事をしてやったなんて、思えるはずもなかった。