プチ連載
□クソみたいに平和な日
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あの日の事はもう、穏便に解決した とは言えない。
馬鹿みたいにお人好しで、警戒心っていうものも知らないまま生きてきたこいつは紛れもなくただの弱い人間だ。
忍び同士が傷つけ合うこのご時世すら、ろくに知りもしない。
そんなやつの目の前であの日、確実にオレは人を殺めかけた。
「―――そんな恩返しはいらないです」
穏便に解決するわけが無かった。
こいつの中にある綺麗な世界を壊してしまった代償は、遥かに大きすぎたのだ。
「で、何であん時のこと」
「飛段さん、私はあの時世間体をあなたに押し付けました。人を殺める事は例えどんな理由があっても悪い事だと…そう考えていたんです。」
それが、忍びを知らない人間の綺麗な世界というやつだ。
「私は忘れていました。あなたが、忍びであることを」
如何なる理由も心情に出してはならない。例えそれが人を傷つける行為であっても、課せられた内容はきちんと全うする。
それが忍びの世界だ。
「という事を思い出したと言いたかっただけです。話を掘り返したい訳では無くて…」
どうやら真剣な話とは、これではないらしい。
「あれが忍びであるあなたの本来の世界だったと、思ったんです。飛段さん…あなたは…行かなくていいんですか?」
何を言い出すかと思えば、結局そういうことだった。
「あなたは暁として戦争に行かなくていいんですか?いつまでもこうして暮らして…それでいいんですか?」
暁が全面戦争を起こす。
そう耳にした時、自分はあくまで暁なのだと自問するべきだった。
自問を忘れていたならば、真っ直ぐに駆け出した足がもう答えを知っていたのだ。
「暁だの言うけどよ、今はお前の用心棒じゃねーかよ」
ここに帰ってくることが、答えなのだと。