黄昏SCRAP
□9話 頼み事
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朝、親友と交わした会話を思い出す。
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「全体曲はもう大丈夫そうよね」
「選抜曲も今月中には完成予定でーす」
「なら結構順調ね。ただ1年生結構手こずってるみたいだけど」
「あ、それならマキとミカヘルプに付けた。ていうか3年曲まだですか花さーん」
「今頑張ってるわよ馬鹿野郎ー。ただでさえ選抜曲難しくて焦ってるのに考えろなんて無理よ!」
「ごめんごめん。選抜曲の振り入れ終わってからでもいいよ」
「うん。…それより最後の1曲どうするの?皆水羽のソロとか言ってるけど」
「はあ!?ソロ!?」
「え、いいじゃない」
「よくねーよ!…あ、」
「何よ?」
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その会話の中で出たアイデアはすぐに頭の中でもみ消したのだけれど、先ほどの顔合わせを見てある考えが浮かんでこれも案外無理でもないかも、なんて思ったわけだ。
まあその筋を伝えるべくこうして2人を前にして正座しているわけだけれども(正座には意味無いけど)。
「もう2人もわかってると思うんだけどさ、あの曲を13人で踊るのは無理だと思う」
そういうとヒョクチェ君とドンヘはだよねえ、と目線を落とした。
いつの間にかダンス重視ではなく盛り上げ重視になってしまったメンバー構成。ダンスの経験者もいれば無経験者、むしろ苦手というメンバーもいるわけで。
私はあの曲はヒョクチェ君とドンヘが踊るからこその曲だと思う。大人数なら大人数なりにフォーメーションを生かした振りが出来るんじゃないかなとか。更に歌も歌うんだったら尚更調整が必要になってくる。
「んー、曲変えるなら変えるで俺は賛成なんだけど」
「ていうか俺も無理だなって思った」
「まずメンバーが個性豊かすぎるしさ」
「ね!あれは引き立てないともったいない」
ああ、やっぱりさすが2人だ、私が言いたい事よく分かってる。ていうか考えてる事一緒。
ただ、でもなあと顔を見合わせた2人の眉根は下がっていた。
「この曲さ、結構苦労したんだけど発表するとこがないんだよね」
「考えれば誰の手も借りないで自分達だけで曲も振りも作った曲ってこれが初めてなんだ、俺ら」
そういった2人は顔を見合わせて寂しげに笑った。
「でもこれ13人じゃ無理だよね、普通に考えて。はは」
「いっそストリートでもいいじゃん」
「それもそうか」
「あ、あのさ、その事なんだけど」
「うん?」
ああ、今更言い出すのが恥ずかしくなってきた。でも頼めるのは2人しかいないし、下手したら本当にソロをやることになる。
いやソロが嫌だから頼むってわけじゃないんだけど…いやまあとりあえず聞いてほしい。
「文化祭ってダンス部の発表あるじゃん?」
「うん。あー楽しみだね!今年は絶対近くで見るから!」
「俺もヒョクチェと見るわ」
「わーありがとー!ってそうじゃなくて」
うわあ恥ずかしいなあ。まあ踊ってる時は入り込んでるから正直客席とかあんまり見てないんだけど。ってそうじゃなくて。
「今1曲どうするか悩んでるんだけど…良かったら2人、踊らない…?」
「「え?」」
2人は目を丸くして、おまけに口もかっぴらいて驚いた。
「それって俺ら2人、で?」
「良かったら3人で…とか」
「「まじで!?」」
いいい言ってしまった!
大丈夫か、これで引き返せないぞ早咲水羽…!
「お、俺らで良いの…?」
「2人しか、いない」
不安気に聞いてきたヒョクチェ君の目を見て、私ははっきりと断言した。
2人のダンスを初めて見た時、息が止まったかと思うくらい感動したんだ。
楽しそうに踊る2人の姿がとても眩しく見えて、同時に羨ましくて切なくなった。私は2人みたいに楽しそうに踊っているだろうかって、ふと思った。もちろんダンスは楽しいけれど、私は何か大切なものを忘れてるんじゃないかなって。
2人と踊れたら、私はそれを思い出せる気がする。
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