Shot・Shot
□I know the love
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「アンタってさ、」
残酷だよね
突然呟かれたそれに、上条は一瞬思考が止まった。
思わず顔を上げて向かいに座る美琴を見返すと、彼女は無表情に自分を見つめていた。
「……は?」
「だから、ひどいっていってんの」
分かる?と首を傾げた美琴はいつもの少し怒ったような表情ではなく変わらず無表情で、上条はごくりと唾を飲み込んだ。
端正な顔立ちをしている分、美琴の無表情は迫力がある。
いつもはコロコロと山の天気のように表情を変えるので気付かないが、やはり美琴は美人と言える部類だろう。
茶色い瞳は冷め切っていて、思考が読めない。上条を軽蔑しているようにすら見える。
俺なんかしったけなぁーと上条が最近の記憶を漁り始めたとき、彼女は再び口を開いた。
「私のこと、ちゃんと、想ってる?」
透明な声だった。抑揚すらないそれは妹達を彷彿させる。
「え……?」
「だから、……私のこと、どう想ってんのって、聞いてんの」
「……美琴?」
「アンタさぁ、本当に私のこと、好きなの?」
そう言った美琴の声は今まで聞いたことがないくらい震えていて。上条は思わず口を噤んだ。
「私…分かんないよ。アンタがどう想ってるのか、何を考えているのか…」
ねえ、私って必要なの?
伏せられた瞳からポタリ、と雫が零れる。
常盤台の制服のスカートに落ちたそれは、黒い染みになって広がった。
* * * * * *
ああ、この人の前で涙なんか見せたくなかったのに。
しかしそう思う心とは裏腹に涙は溢れて静かに頬を伝う。小さな子みたいに泣きじゃくりはしないが、こういうのって『重い』なあ、と美琴は自嘲した。
本当は、ああいうつもりなんてなかった。
ちょっとした、くだらない嫉妬だった。
上条が他の少女たちにも自分と変わらず優しくて、同じように頭を撫でて同じように笑顔を向けて。
自分が隣にいるときと、何一つ変わらないから。
隣にいる意味が、恋人である意味が、ないんじゃないかと思ったから。
醜いな。そう思う自分の心が、どこまでも汚れきっているように見える。
私だけを見て欲しい、優しくして欲しい、その笑顔を向けて欲しい。
なんてワガママなんだろう。
嫉妬と独占欲の塊みたいだ。
嫌だな、こんなの。
上条が笑顔を向けるのは、全て彼が救ってきた少女たちだ。
それは自分も変わらないけれど、彼だけが自分をまっすぐ見つめて対等でいてくれると思っていた。
気持ちを告白して付き合って、手を繋いでキスもして。
他の少女たちが出来ないことを自分だけが出来るという優越感にすら浸った。幸せだった。
上条は自分のもの。
そう言い切りたかった。
でも、現実はそう言いきれない。上条が少女たちと触れ合う度に不安が増していく。
自分が、いつか隣に必要がなくなるかもしれない、と。
上条は何も言わない。
重く湿ったため息を吐いた。軽蔑されたのだろう。覚悟はしていたがチクリと痛みが走る。
上条が何か言おうと口を開く。
終わったんだな。直感でそう感じて、美琴は左手で涙を拭おうとした。
そのとき。
温かい体温が、美琴の左手を柔らかく包み込んだ。
「……え?」
目を瞬かかせると、目の縁に溜まっていた涙が落ちる。
晴れた視界に、上条が泣きそうな顔で自分を見つめていた。