本=♀化

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今日は朝から騒がしい。
皆あちらこちらに、せわしなく動いている。

「今日は何かあるのか?」

「夏祭りだよ」

「なつ、まつり……」

滝の言葉を繰り返す。

「宍戸は初めて?」

「ああ」

遊郭にいた頃は、特に出歩くこともしなかったから。
周りが特別な日でも、俺には何ら変わりのない日々だった。

「おめかしでもして、鳳とお出かけしたら?」

「おめかしっつっても、いつも着てるのしかねぇよ」

「それだけ!?」

「そうだけど」

口を開いたまま止まる滝。
かと思えば、

「ちょっと来て」

「え?ちょ、洗濯物が」

滝に引きずられ、洗濯場から離されていく。
まだ半分しか洗ってねぇのに……

「ここで待ってて」

腕を放されたのは滝の家に着いたときだった。
玄関に俺を残し、滝は家の奥へと消えていった。

「お祭り……」

外の騒がしさを聞きながら、少し前のことを思い出す。
長太郎とあって初めての夏。
まだ長太郎が、俺にとってただの客だった頃。






「あの、亮さん」

酒のせいで赤くなった顔をさらに赤くし、鳳がもぞもぞし始める。

「厠か?」

「ち、違います!」

必死に首を横に振る鳳。
じゃあ、気持ち悪い動きすんなよ。

「えと、明日なんですけど。お暇ですか?」

「なんで」

「夏祭りがあって、一緒に行きたいなって」

照れ笑いする鳳に、酌をしながら答える。

「断る」

それに、と俺は続ける。

「あんたと出掛けても楽しくない」

「……そう、ですよね。すみません、変なこと言って」

「別に」

そのとき俺は、悲しそうに笑う鳳の顔を見て見ぬ振りをした。


次の日の夜、鳳はまたやってきた。

「夏祭りにいったんじゃねぇのか」

「行ってきました。それで亮さん、お土産です」

「お土産?」

鳳が差し出してきたのは赤くて丸いもの。
受け取って、近くで見てみれば、中にりんごが入っていた。

「りんご飴です」

「りんご飴……」

ガラス細工みたいなそれを、灯りに照らしてみる。

「これ食べ物なのか?」

あまりの綺麗さに、無意識のうちに聞いていた。
鳳はそれをバカにすることなく微笑んだ。

「食べられますよ。食べるのが勿体ないくらい綺麗ですよね」

「ああ」

本当に、今まで見たことないくらい綺麗……





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