本=♀化

□片恋
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男子テニス部三年の宍戸亮先輩。
テニスをしている姿が格好良くて憧れていた。

その憧れは、知らないうちに恋に変わった。




「鳳、そろそろ帰らない?」

「俺はもう少しだけ残ってます」

滝さんは俺の見ていた方を見て、納得したように笑った。
そして、俺の横にしゃがむ。

「滝さん?」

「こんな暗い道を、一人で帰らせるわけにはいかないからね」

「……ありがとうございます」

「気にしないで」

滝さんは優しい部活の先輩。
相談は聞いてくれるし、毎日、自主練にも付き合ってくれる。

「滝さん」

「なに?」

「もし俺が男で、宍戸先輩と同じコートに立てたとしたら……」

宍戸先輩と向日先輩のラリーを見ながら、滝さんに話し続ける。

「そうしたら、宍戸先輩の目に俺は映れるんでしょうか」

向日先輩が羨ましいと思う。
生徒会長の跡部先輩も、幼なじみの日吉も宍戸先輩と同じコートに立てることが羨ましい。
でも俺は宍戸先輩と一緒には戦えない……同じコートには立てない。

「男とか女とか、関係ないと思う」

「え?」

「努力は報わる」

そう言うと、滝さんは立ち上がり大きく息を吸い込んだ。

「宍戸ー!!」

「たたた滝さん!?今練習中ですよ」

「大丈夫、大丈夫」

ほら、と言われ宍戸先輩に目を向けると、ちょうど休憩に入ったらしかった。
宍戸先輩は汗を拭いていたタオルを置き、こちらに歩いてくる。

「滝じゃねぇか。自主練か?」

「まあね」

そう答えた滝さんの横にいた俺と、宍戸先輩の目があった。
すると、宍戸さんの目が開かれた。

「滝、コイツもしかして……」

「そう」

滝さんは状況を理解していない俺の肩に手を置き、

「この子だよ」

「たしか、鳳、だっけ?名前」

「は、はい」

宍戸さんが、俺の名前を知っててくれた!
あまりの嬉しさに、思わず何度も首を縦に振る。

「遅くまで練習してんの見て、すげぇなって思ってたんだ。お前、案外細いんだな……あんな速いサーブ打つとは思えねぇ」

「宍戸、セクハラ発言?」

「なっ、違ぇよ!!ただ、こんな華奢で女らしいっつうか、可愛いっつうか…………だぁぁぁ!!何が言いてぇんだ俺はっ」

顔を真っ赤にする宍戸さん。
俺も釣られて赤くなる。
宍戸さんは赤い顔を俺に向け、

「えっと、鳳」

「はい」

「今度、試合しようぜ。お前のサーブ間近で見てぇ」

宍戸先輩と試合?

「はい、ぜひ!ぜひ、お願いします」

「おう。じゃあ楽しみにしてる。遅ぇから気をつけて帰れよ」

「うん。じゃあね宍戸」

「さ、さようなら」

練習に戻る宍戸先輩の背中を見送り、幸せの余韻に浸っていると、

「帰ろうか、鳳」

滝さんが言った。

「はい」

傍らに置いてあった荷物を持ち、滝さんの横に並ぶ。

「鳳は宍戸の目に映ってたね」

「はい」

「公式じゃないけど、同じコートに立てるね」

「はい!」

満面の笑みで頷く俺に、滝さんは優しく笑った。




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(↑と書いて『懺悔』と読む)
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