本=氷帝
□無題
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「宍戸さん。『ウンディーネ』という物語は知ってますか?」
「うんでぃーね?」
「はい」
「あー……知らねぇなぁ。どんな話?」
俺は開けていた教室の窓を閉めながら聞く。
「水の精霊であるウンディーネが人間の騎士に恋をするお話です。二人は愛し合い、幸せに暮らしていました」
長太郎は窓の外、どこか遠くを見ながら話し始める。
俺は軽く聞き流しつつ、相づちを打つ。
「けれど、二人の間に人間の女性が現れて、その幸せは崩れてしまいます。なぜなら、騎士の心は女性に傾いてしまったから」
ふと視線を感じ、長太郎に顔を向ける。
「長、太郎?」
長太郎は真っ直ぐ俺を見ていた。
その目があまりにも冷たくて、俺は身を堅くする。
「なんだか、俺たちみたいですね」
「どういう意味だ」
長太郎が一歩、また一歩とゆっくり近づいてくる。
笑っているのに纏っている空気は冷たい。
思わず後ずさろうとするが、すぐ後ろは壁。
「俺がウンディーネで、宍戸さんが騎士」
「…………まさか、人間の女が“アイツ”だとか言わねぇよな?」
「そうだと言ったら?」
長太郎は見下したように笑う。
それが俺の癇に障った。
「ふざけんな!!“アイツ”とは何もないっ。前にも言っただろう?」
「どうだか」
長太郎の返答に、目頭が熱くなった。
疑いの籠もった目が、辛くて、悲しい……