本=氷帝

□どれにする?
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今日はツイてねぇ。


教科書は忘れる。

百円は自動販売機の下に落とす。(ペンを駆使して、しっかり拾った)

天気予報がハズレて、午後から土砂降りの雨。(天気予報を信じてた俺は、もちろん傘なんて持っていない)

「はぁ……」

ため息を吐きつつ、雨に打たれる窓に目をやる。


長太郎に会いたい。


今日みたいに気分の沈んだ日は特に思う。
同棲を始めて約半年間、毎日顔を合わせているのにも関わらずに。

俺の中での長太郎は、かなり癒し効果があるらしい。

「宍戸、講義終わったよ」

「え……」

友人に肩を叩かれ、窓から視線を外す。
教室の中はほとんどの生徒が立ち上がり、帰って行くところだった。

「俺は帰るけど、宍戸はまだあるのか?」

「ある。早く帰りてぇ」

そんで長太郎に会って癒されたい。

「頑張れよー。じゃあ、また明日」

「おう、じゃあな」

俺の心中を知らない友人は、鞄を背負い教室を出て行った。


あと一時限。たった一時限だ。


自分にそう言い聞かせ、俺は次の講義の準備を始める。

「ヤベ……」

忘れたことを忘れてた。
この講義の教科書が、ないんだった……






教科書は近くの奴に見せてもらえた。
俺はそいつに礼を言って、鞄に筆記用具などを仕舞い始める。

教科書問題の次は外の問題だ。
雨は止むことも勢いが衰えることもなく、ただひたすらに降っている。

「この中帰るのかよ……」

途中で買うにしても、少し遠回りしなければコンビニはない。
早く家に帰りたい俺は、その考えを却下した。


一度大きなため息を吐いた俺は、意を決して外へと足を向けた。



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