本=氷帝

□猫じゃらし
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俺の目の前で左右にユラユラ揺れる、緑色の毛虫のような草。
その動きに合わせて、目を左右に動かす。

「ほーら宍戸さん、猫じゃらしですよ〜」

「猫じゃらしだな……で?」

猫じゃらしから目を離し、猫じゃらしを動かす後輩を見る。
すると、驚いたように目を見開く長太郎と目があった。

「宍戸さん、じゃれないんですか?」

「いや、なんで驚いてんだよ。当たり前だろう」

あからさまに肩を落とす長太郎。

「じゃれる宍戸さん……可愛いと思ったのに」

「気持ち悪いだけだろ」

長太郎の考えてることが分かんねぇ。
長太郎の手から、いまだに捨てない猫じゃらしを取ろうと、俺は手を伸ばす。

が、俺の手は何も掴むことができなかった。

長太郎を見上げると、猫じゃらしを持った手を高く持ち上げていた。

「猫じゃらし、もういらないだろ?渡せよ」

「嫌です。なんと言われようと、宍戸さんがじゃれるまで諦めません」

「お前はガキか!いいから渡せ」

また猫じゃらし目掛けて手を伸ばす。
しかし、今度も避けられる。
何度やっても結果は同じ。

最終的には腕を目一杯伸ばされ、俺の手が届かないところに持っていきやがった。
ジャンプしてみるも、また避けられる。
悔しさで長太郎を睨みつける。
と、長太郎は輝いた目で俺を見ていた。

「宍戸さんがじゃれてる……」

「え?……あ」

し、しまったぁぁぁぁあっ!

確かにじゃれてるとも言える自分の行動。
長太郎の思う壺になっちまった。何やってんだ俺!

猫じゃらしも奪えないしよ……

そんなことを考えていたとき、滝の言葉が頭をよぎった。

『もし、長太郎が言うこと聞かなかったら、こうするといいよ』

えっとまず……

『服の裾』

を掴んで、

『見上げるように』

長太郎を見つめる。

つーかコレ、上目使いってやつか?
気持ち悪くて、長太郎が呆けてんじゃねぇか。

滝は『これは宍戸じゃないと効かないからね』と言っていたが、違う奴でも同じじゃないか?

だけどまぁ、結果オーライだ。呆けてる長太郎の下がってきた手から、俺は猫じゃらしを奪い道端に放り投げた。

「宍戸さん、どこでそんな……」

「何か言ったか?」

「宍戸さん!俺以外にあんな顔見せちゃダメですから」

俺の肩を掴み、そんなことを言ってきた長太郎に、

「あ?頼まれてもしねぇよ」

そう答えると、満足気に笑った。

意味がわかんねぇ。

「帰りましょう、宍戸さん」

「お、おう」

長太郎は帰り道、始終笑顔を絶やすことはなかった。




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