本=氷帝

□王道?
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「おい、長太郎」

「はい」

「何ニヤけてんだ、気持ちわりぃ」

「え?!ニヤけてました?」

久々に二人だけで帰れる嬉しさ。俺はその気持ちが顔に出ていることを知った。
頑張って引き締めようとしても、顔は言うことを聞かない。
そんな俺を見て、宍戸さんは苦笑したあと、思い出したように言った。

「来週の日曜日クリスマスだったな」

「そうですね。宍戸さん、欲しいものありますか?」

「俺?俺は……」

宍戸さんは眉間にシワを寄せて悩んでいる。
なんかこの表情、癒されるなぁ。
子供が一生懸命考えてる感じに似てる。

「欲しいものか……王道が欲しい、かな」

「王、道?まさか宍戸さん、跡部さんのキングの座を!?」

「違ぇよ!!ほら、あれだ。『俺がプレゼント』ってやつ」

と、満面の笑みで言ってくる。

「そ、それは王道なんですか?それに、どちらかと言えばバレンタインな気が……」

「どっちでも同じだろ?」

本気ですか、宍戸さん。
『俺がプレゼント』を俺がやるんですか?
断然、宍戸さんがやったほうが可愛いのに!
抱きしめたいくらい可愛いのに!

「俺、長太郎が欲しい」

さっきまでの笑顔が嘘みたいに、真剣な表情の宍戸さん。

「あ、の…………えと……」

「欲しい」

「うっ……はいぃ……」

「よっしゃっ!約束な、忘れるなよ」

「わかりました……」

なんて素敵な笑顔。
なんだか泣けてきた。

「ちゃんと真っ裸で、身に着けていいのはリボンだけだからな」

「はい!?」

「じゃあ、また明日」

いつもの別れ道で、宍戸さんは手を振って走り去っていく。

「まっ待ってください、宍戸さん!!」

俺の声は宍戸さんに届くことなく、虚しくその場に響いた。

「うぅ……」

ただリボンを頭にでも付けて、台詞を言えばいいとばかり思っていた。甘かった……
崩れるようにしゃがみ込んだ俺の脳内は、一週間後に待ち受けるクリスマスに対する憂鬱と不安。
そして、

「…………宍戸さんが俺のこと、欲しいだって」

喜びで溢れていた。







           終わり

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