本=氷帝

□次の人生も
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幾度となく嗅いできた血の臭いに、俺は慣れてしまった。

俺は顔に飛んだ血を拭い、倒れた三人の男の服を順々に調べる。
探し物は、盗まれた極秘情報の入ったフロッピーディスク。

最後の一人も持っていない。

「チッ……」

苛立ちを近くの机にぶつける。
机は大きく窪み、上の書類やら何やらを落とした。
落ちた紙に、赤い液体が染みる。

「宍戸さん、大丈夫ですか?!」

「ああ、長太郎……ディスクは?」

部屋に飛び込んできた長身、銀髪の男。
仕事のパートナーで、もう三年ほど一緒にいるだろうか。

「ありました。そんなことより怪我はありませんか?」

「そんなことじゃないだろう……」

駆け足で寄ってくる長太郎に俺は苦笑する。
まるで家で飼ってた犬みたいだ。

「肩を弾がかすっただけで、あとは皆こいつらの血」

長太郎は俺の肩を見て、哀しそうに眉を下げる。
そして、ポケットからハンカチを取り出し、傷に巻いてくれた。

「宍戸さんに怪我させてしまうなんて……」

ハンカチを巻いていた長太郎の手は、優しく俺の目の下を擦った。

「すみません」


「謝るなよ」

「やっぱり宍戸さんを前衛で戦わせたくありません。俺のと交換しましょう」

両腰に差してある銃を、満面の笑みで差し出してくる。
俺は呆れながら首を横に振った。

「絶対嫌だ」

そう言うと、長太郎は顔をしかめた。

「なら、一人で突っ込んで行くの控えてください。こっちはいつもハラハラしっぱなしなんですから」

「悪ぃ……気をつけるよ」

俺は長太郎と組んでから、少し無理な戦い方をするようになった。
長太郎の援護は完璧で、どうにも動きやすいのだ。

「けど、無茶してもお前が守ってくれんだろ?」

「宍戸さん……」

「どうなんだよ」

「守って見せます。どんな奴からも」

真っ直ぐ俺を見つめるその目は、俺が一番大好きな色をしていた。

「帰ろう長太郎。こんな血生臭いところ、早く出ようぜ」

「はい」

長太郎は先に外を出る。
俺も後を追った。




―お前だけ帰るのか?
 俺たちはもう帰れないのに……




突然聞こえた声に、部屋を見渡す。
誰もいない。

「宍戸さん?」

「なんでもねぇ。行こうぜ」





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