本=氷帝
□ありがとう
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暗くて寒い路地裏。
そこにオレは捨てられた。
最初は「きっと」「そのうち」と、飼い主が迎えにくるのを信じてた。
でも、誰も来てはくれない。
オレは期待しなくなったし、誰も信じられなくなった。
そして何日もご飯にありつけなかったオレは、路地裏の隅にうずくまった。
空腹をまぎらわすように、ただじっと体を丸める。
「お前、一人なのか?」
無愛想な声。でも労りも混じった優しい声。
近くで聞こえた久々の人の声は、オレに向けられていた。
真っ直ぐな目で見つめてくる幼い顔、オレの頭を優しく撫でる手。
オレの“はじめてのともだち”
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路地裏で拾った犬は、俺と同じくらいの大きさはあった。
でも、犬は簡単に持ち上がった。骨と皮しかない、その言葉を表したような体だ。
「家帰ったら、すぐご飯やるからな」
そう言って、俺はできるだけ早く家に向かった。
転がるように家に入ると、皿にご飯を盛り、水と一緒に犬の前に差し出す。
「さぁ、食え」
犬は匂いを嗅いだあと、ものすごい勢いでご飯に食らいついた。
その姿を見つめながら、犬を飼うために親をどう説得するか考えた。
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「コイツを飼いたい」
考えた結果がこれだ。
ゴチャゴチャ考えるより、素直に言った方がいいと思ったから。
もちろん、反対されても引く気はない。
「ちゃんと面倒見られるなら、飼ってもいい」
「え……本当!?」
あっさりと許可が降りて、身構えていた俺は少し拍子抜けした。
「ああ、しっかり面倒見るんだぞ?」
「うんっ!やった長太郎、これからはずっと一緒だ」
俺は長太郎を抱えクルクル回る。
「長太郎?」
「そう、体が細くて長いから」
長太郎は俺から解放されると、目が回ったのだろう、おぼつかない足取りで歩いた。
さっき俺が作った寝床に行きたいみたいだ。
「あっ」
長太郎はその場にぺタンと潰れる。
俺は笑いながら、長太郎を寝床に寝かせてやった。