二
□泣けない女
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『でも私は生きている。夢なんかじゃない・・・この体は、幻なんかじゃない!』
気付けばそう叫ぶ名前を抱きしめていた
過去を振り返っても、取り乱す女を抱きしめるなんてそんな行為の記憶はない
今まで特定の女が居なかったわけではないが(それなりにモテたし女遊びに明け暮れた時期もあったが)、こういう状況になればさっさと捨ててきた
『ひどい人ね』
そう言われるのは毎度の事。だがどんなに魅力的な女だろうと、高い声は煩わしく、涙なんぞ見せられれば興醒めした(そういうやり取りを楽しむのはサッチやハルタ。俺にゃ無理だよい)
そんな俺が泣きそうな、でも泣かない、唇を歪めた名前を見た途端体が勝手に動いた。完全に無意識、だった
小さな、俺の胸程もない少女
異世界から来た、しかもくの一である彼女は容姿に関わらず実力は折り紙付き
しかし今マルコの腕に抱かれる名前は力を込めれば壊してしまいそうなほど、儚い
強い女
他人には笑わない女
家族には母のように笑う女
俺が、惚れた女
その女が目の前で悲しみに耐えているってのに、抱きしめない男はいねェだろうよい
「名前、お前は、俺の目の前にいるよい」
名前の腕は腹の傷痕に置かれたまま。マルコの背に回される気配はない。それでもマルコは満足だった
弱みを見せたがらない彼女なら、笑ってかわすことなど容易いだろう。しかし名前はされるがまま動かない
「こうして触れる。幻なんかじゃねェよい」
そう伝えれば、きゅっとシャツの袖を握られた
‐お前が俺を頼ったのは、初めてだねい‐
やっぱひどい男でしかねェな
嬉しくてたまらねェよい
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