一
□出逢う
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医務室を後にし、耳元で呟かれた言葉を反芻する
何となく聞き取れたのは
「先生」
「任務」
「戦の準備」
「キリマル」
身元を調べなきゃならねぇ。海軍関係者だと厄介だよい
「イゾウ、今いいかよい」
親父の元へ向かう途中、甲板で愛用の銃を弄っていた奴に声を掛ける
「なんだ?」
「医務室でエースの手伝い頼まれてくれ」
「エースの?」
「行きゃあ分かるよい」
訝しげなイゾウに背を向ける。奴なら安心して任せられる(近くに暇そうなサッチもいたが、間違っても奴には頼まねェ)
マルコに言われ医務室へ入ると、手持ち無沙汰に足をブラブラさせてるエースの横で先程釣り上げられた女の手術が行われていた
「エースを手伝えっつぅことだったが」
お前ェ何してんだ?
「こいつ、起き上がろうとすんだよ」
力、スゲーんだ。さっきもマルコと二人がかりでさ、ナースじゃ無理だった
ボロボロなナース達の姿はこいつが原因だったか
「この細腕でなぁ」
見たところそれ程筋肉がある様にも見えんし、ナース長や隊長格を煩わせる程の腕とは思えねぇ
「変な服着てたし」
指差す先を見る
篭に纏められた黒い布
そういやぁ体に張りつく黒髪と美しい容姿、甲板に滴る朱が印象的で服なんざ見ていなかったな
黒い服だったのは覚えていたが
広げようと持ち上げると何故かズシリと重い。それは・・・
「忍び装束じゃねぇか」
懐を探れば出てくる出てくる武器の山
あっという間にテーブルは一杯。もしかしてとナースに少女の下半身を確認させればやはり大量の武器(エースが唖然としていた)
だが様子が可笑しい。モノが古臭い
まるで古道具屋、自分も資料で見るよう物ばかり。しかも
「随分と、血生臭ェなあ」
着ていた本人が大量出血なのだから血が付着するのは当然。だが中には固まってこびり付いた物もある。時間が経った血だ
果たしてこれは本人のものか、それとも返り血か
少女の顔を見る
この辺りを航海する海賊
どこぞの島の忍者(後者は無さそうだ。この辺りに島はない)
海軍や世界政府関係者という可能性もあるが・・・
容姿はまるでお姫様
「ふ、面白くなってきたなぁ」
装束を篭に戻す。今頃手配書を読み漁っているだろう長男を思い浮かべ、ニヤリと笑った
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