一
□特技:七変化
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モビーへ戻ると、既に名前宛ての荷物が幾つか届いていた。梱包を解き中身を確認する。うん、間違いない
「凄いよい」
火気厳禁!と書かれた箱を覗くマルコさん。くの一ってなァ凄い技を持ってんだねいと、笑う。そこに軽蔑や嫌味はなくて(大抵の男はそういう目で見るんだ、くの一を)、ただ凄いと、技術を褒める彼に不覚にもドキリと跳ねる心の臓
・・・これじゃ、くのたま失格ね
忍者の三禁である、色
『男は手の上で転がすモノ』とは山本シナ先生からの教え。入学してから耳にタコが出来る位繰り返された言葉
我々くの一は常に『転がす側』でなければならない。転がされるふりは必要だが、心乱されてはならない
六年にもなって、こんな基本的なものに煩わされとは思いもしなかった
「男に高価な物をより多く貢がせる授業があります。マルコさんもやってみては?」
雑念に気付かれぬ様、軽口を言ってみる。マルコさんは、うげっ、と口元を歪めた
「俺は男だよい」
「あら、忍たまもやりますよ。女装で」
「よい!?」
ぎょっとした顔。ふふ、笑いながら先月の授業成績を思い出す
「前回、というか忍たまでは毎回立花仙蔵が一番です。いつも台車数台に着物や飾り物をこれでもかと積んで帰ってきます」
仙蔵の女装は飛び抜けている。妖艶な姿態、存在感、それらに魅了された男が次々と物を贈る。目すら合わせてくれない、女装の男にだ
そしてそれを呼び付けた八左ヱ門とか兵助に運ばせる辺りも彼らしい(八左は酒、兵助は豆腐で簡単に釣れる)
「忍者ってなァそんな事もすんのかよい」
「くの一だけと思いました?」
苦笑いで、ああ、そういうもんだと思ってたよいと首筋に手をやる
「忍者が女装すればそれはくの一。逆もまた然り」
美しくあることも忍者には必要なんですよ?
「美しいって・・・どんなヤローだよい」
ポツリ、呟かれた言葉に思案する
此方と違いカメラなんて物は存在しない元の世界。手配書を見せ『コレです』なんて事は当然出来ない。だが私はマルコさんに仙蔵を『見せる』事が出来る
町で顔を晒してしまったし、そろそろ頃合いかもね
「お見せしますよ」
顔を撫でる。くるり、地を蹴り一回りする間に身体の凹凸を締め上げた
「これが仙蔵です」
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