一
□水も滴るいい女
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航海士の話では、あと二日もすれば島に着くらしい。こういった場合、偵察に出るのは小回りの利くエースか空を飛べるマルコ、海を行けるナミュール(無人島に限るが。丘じゃ目立つ)の役目
前回エースだったなら次はマルコ
そんじゃあ行って来るよいと親父に声を掛け、不死鳥になろうと縁に立つ
「マルコ、使いか?」
「次の島に偵察だよい」
声を掛けてきたのはジョズ。その巨体が楽しそうに揺れる
「ああ、そろそろか!」
よろしく頼む
普段余り笑う事もない男だが(酒が入りゃ別だ。笑い上戸になる)久方ぶりの上陸となれば心弾むもの
上機嫌のジョズに片手を上げ、体を不死鳥へと変化させた
‐ザバアアァン‐
「マルコ!!!」
揺れる視界の向こうに、手を伸ばすジョズが見えた
飛び立った瞬間、まさかのタイミングで現れた大型海王類の巨大な飛沫を浴びてしまった自分。一瞬のうちに力は抜け、体も人へと姿を変える
・・・力・・・入らね、よい・・・
「誰か来てくれ!!マルコが海に落ちた!!!」
甲板で洗濯物を干していた名前。その耳に届いたのは焦ったような叫び声
その内容に、持っていたシーツを放った
彼もマルコさんも能力者。ジョズさんは助けに行く事が出来ない
走りながら周りを見る。今一番近くにいて泳げる者は、私だ
とん、床を蹴る。とぷん、と僅かな飛沫を上げ吸い込まれる体(上から海王類に気を付けろと叫ぶ声が聞こえた)
すぐ横には銀に光る鱗の尾
これに呑まれたのかと納得し、マルコさんを探すとその姿は思っていたより随分先にあった
思い切り水を蹴る。海底に潜る海王類が生み出す海流に攫われたマルコさんの身体はズブズブと沈んでいく。力ないその姿を必死で追う
・・・くっ、速い・・!
自分の息はまだ余裕がある。だが沈むマルコさんは違う。早く助けなければ。こんな所で恩人を溺死させる訳にはいかない!
あと、少し・・・・・・っ、掴んだ!!
握り締めた腕を思い切り引く。何とか下降する流れから這い出し、光へ向かって再び水を蹴る
薄く目を開くマルコさんはまだ生きている。ホッと安堵し離れないよう左手を背中に回し、右手で後頭部を支える
そして――
目の前の薄い唇を、塞いだ
重なった唇の端から漏れる空気の泡。その向こうでは細い目が若干見開かれているが、名前は構わず再び空気を送る
「はっ、はぁ・・・っ!!」
ざぶん、と数分ぶりの海面に大きく息を吸う。普段ならば問題ない程度の潜水だったが、マルコさんに空気を与えた事で大分苦しかったのだ
「名前、大丈夫か!?」
「はい!上げて下さい!!」
ジョズさんによって手元に落とされた浮きを掴む。直ぐ様グイッと引っ張られ浮き上がった体。甲板の上にまで飛ばされるが、体勢を整え着地する
周りにはサッチにエース、ハルタ、イゾウ・・・他数名のクルーが集まっており、二人の姿を見付けると年少組はバタバタと駆け寄る
「大丈夫かマ・・ルコ・・・お前顔キメエぞ?」
「うわ、ホントだ・・・」
心配していたエースとハルタだが思わず、一歩退く
彼らが見た長兄の顔はこれ迄見た事無い程に、真っ赤、だった
しかし当の本人はソレに気付く余裕もない
つい数秒前まで触れていた唇の感触だとか、密着していた体の柔らかさで頭が一杯。苦しい程脈打つ鼓動はきっと苦しかったせいじゃないだろう
クソッ、俺ァどんなガキだよい!
「マルコさん大丈夫ですか?」
「・・・・・・よい」
「立て…ませんね。シャワーで潮を流しましょう」
‐君は力持ち‐
ぷっ、マルコの奴肩に担がれてやんの!
うわぁ、バナナが萎びちゃったね
くく、姫抱きよりゃマシだろうさ
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