二
□変化しましょう
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「んむむむむ…――――分かった!そばかすの数が多い!」
「次!」
「…前髪が右分け!」
「次!」
「刺青の位置が逆!そんでもって色が違う!」
「何色だァ?」
「えっと…っ」
「時間切れだなァ」
「痛゙っ」
「名前とキリマルよォ、なにやってんだ?」
灯りの下で次々変装を繰り返す名前。その横にはキリマルが額にハチマキを巻いて何やら叫んでいる
「変装教えてんだとよい」
毎回少しずつ本人と違う変装をしてその差違をキリマルが当てるという修行らしい。それを伝えればラクヨウは成る程なァと隣に座った
それは夕食の少し前のこと――
エースとの組み手が終わりタオルで汗を拭うきり丸と伊助。伊助に至っては所々痣や擦り傷ができている。痛みもあるだろう。それでも必死に食らい付き、終れば次もお願いします!と頭を下げた
「おう、ぜったい強くしてやるからな!」
「「よろしくお願いしますっ!!」」
「エースさん、お疲れ様です」
「お、名前!」
「姉ちゃん!」
「名前先輩!」
声を掛ければニカッ、笑顔が向けられる。エースさんにしてみれば遊びの内にも入らない、欠伸が出るような動き。それに普段の彼ならもう食堂にいる時間でもある
それでも、いつもの、あの日輪のような笑みを向ける彼(本当、優しい先生、ね)
「へへっ、楽しかったぜ?ルフィに教えてたの思い出してよ。イスケは先ず医務室行けな」
「はいっ」
「俺も行こうか?」
「いいよ、席取っといてね。先輩、エースさん失礼します!」
汗で額に張り付いた髪を掻き上げてやるとニッコリ笑って駆けて行った伊助。その後ろ姿を見送りきり丸、と声を掛けた
「変装を教えるわ。夕食後、甲板に来なさい」
「へ?」
ポカンと口を開けたきり丸にふふふ、思わず笑ってしまう
何故変姿の術を教えるか
答えは簡単。それはきり丸だから
私の十八番で教えやすいとか、自分の得意なモノを可愛い可愛い弟も出来てくれたら嬉しいなとか、まぁ多少邪な考えがあったのも認めるが…
それだけが理由じゃない
私はきり丸をよく知ってる。土井先生と同じくらいには、と勝手に自負しているくらい
女装して物売りをしていたきり丸。客はおろか雇い主さえも欺く演技力。加えて売れる相手を見分けどうすれば買うかを瞬時に判断する洞察力。同学年は勿論、下級生の中でも抜きん出た能力だ。私と同じ…―――‘生きる’為に磨き上げ得た力
死にたくないから、生にしがみつく子供は必死に大人の顔色を見、学んだ。どうすれば彼らが喜ぶか、食べ物をくれるか、金をくれるか…
他の誰でもない。きり丸だからこそ、きっと物に出来る。その確信があった
だから決めたのだ。私にしか出来ない、特別授業
驚いて呆けていたきり丸。だがすぐ嬉しそうに笑った
「ソッコーで飯食ってくる!」
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