二
□優しさに感謝
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「鍛練……ううん。読書にしようかな」
午後の授業も終わり(授業は座学の割合を増やした。土井先生の胃の為にも!)夕食までの時間をどう過ごそうかと悩む。明日の授業の準備は終わってしまったし、繕い物もないのだ
「本を読んであげようかしら」
ふと頭に浮かぶのは弟たち。学園にいた頃絵本を読んであげたら喜んでいたっけ。そう言えば書庫に童話集がいくつかあったのを思い出す(海賊船になんで?と思ったらたまに読みたくなるもんだぜと笑ったフォッサさん)。みんなと選んで、部屋で読もう。そうしよう!
「虎若!…と、イゾウさん?」
「名前先輩!」
テーブルに座り笑顔で手を振る虎若、の横にはカチャカチャと愛銃を弄るイゾウさん。はて、二人はそんなに仲が良かっただろうか。いや、銃火器が好きな虎若がここへ来てすぐ彼に憧れを抱いた事は知っているけど
「おちびに、こいつの仕組みについて説明しててねぇ」
普段見せる妖艶な笑みはなく、楽しそうに笑うイゾウさんは手を黒く汚しながら(虎若は鼻の頭まで真っ黒だ)テーブルに広げられた銃を弄っている。見たことない物も多い
「趣味で集めたモンさ。なぁに、夕食までには切り上げるよ。なァトラ」
「はい!よろしくお願いします!」
「ランタロウ?ああ、薬剤師と遊んでたわよ」
ほらあそこ。ナースの美しい指が指し示す先、医務室奥には薬剤師と薬草を調合している乱太郎の姿が
しんべヱ、喜三太、三次郎、兵太夫は船大工と何やら図面を引いていて
「折角だ、物造りの何たるかをだなぁだっはっは!」
金吾はハルタと木刀を打ち合い
「えへへ、この前の授業が楽しくて!」
伊助、きり丸はエースと組み手を
「イスケは受け身下手だなぁ。よっと」
「「うわぁぁ!」」
…どういうこと?
弟たちは皆そろって忙しそうでこちらももう読書をする気にはなれず、食堂でポツンと佇んでいると目の前に湯呑みが置かれた
「…フラれてしまいました」
「ぷ、くく、そりゃあ悪ィ」
そう笑って向かい合うように座りコーヒーをすするサッチさん。今日のスカーフは緋色ね。だなんてどうでもいい事を考える
「おちび達にさ、少しでも学んで帰してやろうって、マルコの発案」
「…え?」
柔らかな笑顔の彼を見つめる。それは、コックや航海士の方々と話していたような裏方作業の事では、ないの?
おちび達が落ちてきた時に話は出たんだがなァ、誰がなにすっかってのは隊長会議決めたのさ
「正直なに教えたらいいか分かんなくてな。名前が前に特技とか好きな事話してんの思い出しながら割り振ったんだ」
絶対ムリさせねェようにさ、夕飯までって決めたんだぜ
サッチさんの柔らかな瞳が見つめる。あったかくて、ちょっと悪戯っぽく細められてて……
「俺たちだって何かしたいだろ。名前の大切な弟なんだからさ」
「…っ」
ああ
なんて、なんて
心地いいんだろう
「泣いてもいいぜ」
俺の胸でお泣き!
両手を広げるサッチさんには、にっこり笑って舌を出す(そうでもしなきゃ、溢れる感情を抑えられない)
「泣きませんよ。私、くの一ですから!」
必ず、笑顔で送り出そう
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