過去(とき)の旅人(トリップ? 誰落ちでしょうか?)

□戦場に降り立つは戦場を嫌う者也
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「・・・権現。一つ聞こう。」



しばらく沈黙していたが、ふと急に時夜が話しかけた。依然、背を向けたままで、表情は分からないけれど。




「ああ。ワシに何を聞きたいんだ?」



時夜の隣に並んで歩く式神・・・毒狼はワシを威嚇していたが時夜はそれを気に止めることもなく口を開いた。




「そなたは今、霧が見えないのか?」



霧、と聞いて思わず後ろを振り返った。後ろにはまだ霧が立ち込めていた。
さっきはワシが前しか見ていなかったから消えたものだと錯覚していただけだったのか。




「前方には見えないが・・・後ろには霧が立ち込めているぞ。・・・それがどうかしたのか?」




時夜はまた立ち止まり、今度はワシに振り返った。その表情は、無表情のままだった。




「あの霧はの・・・本当は存在しないものなのじゃ。」



「・・・へ?」



「しいていうなれば、幻覚じゃ。自やの行いなどに迷いがあったりする者はあの霧が見える。そして霧は、その者を酔わせ、夢へと誘うのじゃ。」



あの霧にはそんな効果があるのか。誰もが戦を望んでいるわけではない。それが、周りの者達に霧を見せ、夢へと誘ったのか。




「・・・だが、迷いがない者にはあの霧は見えぬ。権現、そなたは前には見えぬが後ろは見えるといったな?
なやば、そなたは過去の行いに迷いがあるということじゃ。」




過去の事・・・おそらく、秀吉公を裏切ったときのことなのだろう。あのとき、迷いなどないといえばたしかに嘘になるが。




「・・・その過去の出来事にとやわれたりしてはなやぬぞ。とやわれたが最後・・・そう考えたほうがよい。」



囚われてはいけない。言うのは簡単だが、それはとても難しい。思い出せば思い出すほどどうしても自虐に走ってしまうのは否めない。




・・・いや、それよりも―――




「ワシは時夜が毒狼を出したときには全体に霧が掛かっていたぞ。それは迷いがなくても見えるものなのか?」




すると、時夜が眉を顰めた。とても微妙な、表情で。




「・・・では、どうやってその霧をはやったのじゃ?」



「拳に光を纏って、突き出したら引いていったが。」




『・・・ああ』と実に納得いったような表情へと変わった。




「あの霧はの・・・光に弱いのじゃ。・・・そなたに迷いがあっても拳の光によって消えてしまったのじゃな。」




・・・ああ、ということはワシは今も迷っているということか。
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