運命(いま)を変える者(トリップ 石田落ち)
□幸せ・・・一本でも抜いたら辛くなるの
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自室にて、筆を動かす私。
こちらに来たとき、制服に隠していつも肌身離さず持っていた日記帳も一緒に飛ばされたようで、それに今日の日記を書いている。
この日記は私にとっては命よりも大切なのだ。他人にそれを理解しろとは言わない。だって、どうせ理解なんてしてくれないもの。
・・・あれからは、三成さんが口に入れるものは全部私が作ってる。他の人が作ったのを持っていっても、何故かすぐにばれる。
三成さんが言うには、『それしきのことが分からぬ私ではない。』と豪語しているが、真相はどうなのやら。
(戦国時代っていうのも、意外と悪くないものだなぁ。)
なんて現をぬかしていると、襖から『入るぞ』と声が聞こえた。この声は、三成さんだ。
「はい。」
「喜べ。今宵は宴だ。」
三成さんがいきなりそんな事を言うので、私は思わず筆を落としてしまった。黒いシミの領域が広がる。
理由は・・・三成さんがこの上なく嬉しそうにとろけるような笑顔をしていたから。逆に怖いよ。
「・・・え?何かよいことでもあったんですか?」
どうして、そんな嬉しそうにしているの?主役となる酒だって、この時代では貴重なのに。
「明日、戦がある。その戦に勝てば遂に・・・秀吉様が天下を掴むのだ。その前祝をしても不思議ではなかろう。」
それを聞いて、ハッとなった。
(ああ・・・そうだった。)
三成さんは、その戦いの際に起こることを知らない。己の身に降りかかる不幸を。再び始まる日の本の乱世を。
恩返しをしなければ、と力むあまり状況を忘れていた。
「どうした。早く用意をしろ。」
「・・・はい。」
憮然とした態度で返事をすることしか今の私にはできなかった。
「・・・? まぁ、いい。では、早くしろ。秀吉様を待たせようものなら許さない。」
そういって、部屋を後にした三成さん。私は依然働かない頭だった。
(た・・・竹中さんに伝えないと・・・!!)
タイムリミットは明日。それまでに伝えられなければ・・・
「・・・っ」
焦るあまりガチャガチャと何度も失敗しながらやっと日記帳に鍵をかけることが出来た。
私は支度をし、自室を飛び出した。