そのほかの短編(Ib『なにこれチャプチェ』追加!!)

□↑のさらに続編 覚醒?
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「・・・今日もいらっしゃいませんね・・・」


「ボクからしたら一乗員にそこまで固執していることのほうが残念に思えるよ。」


やたら冷たい目でこちらを見やる弟の発言は聞いてなかったものといたしましょう。

私がこう言うのもあれからリリィ様が一向にここギアステーションにきてくださらなくなってしまったのです。

トウコ様にお伺いしたところ
『リリィはトレーナーズスクールの短期講師として招かれたからしばらく来れないんじゃないかなあ』

とのことでした。


僭越ながら私、その言葉にひどく嫉妬いたしました。
リリィ様が沢山の人間に注目されているという事実が大変面白くないのです。

当然、リリィ様の実力は誰の目にも素晴らしいものと判るほどに明確なものでございます。
そんなリリィ様を注目しないわけがない・・・わかってはいるのです。


しかし、しかしながらです、だからといって私がリリィ様に会えるときを奪って良いとは決して言えないでしょう。
いえ、断じて言わせません。

私がリリィ様を独り占め・・・ではなく、リリィ様がバトルサブウェイ、
それもシングルに挑戦する機会など滅多にないというのにそれさえも削られるというのは由々しき事態と思うのです。



このままではいずれリリィ様がギアステーションにすら来てくださらなくなる・・・

・・・私にはそれが一番恐ろしい。


・・・等と思っていてもリリィ様が来てくださるわけでもなく。


すっかり意気消沈しながら平常運行をしている次第でございます。


「それって平常じゃないよね。」


クダリの発言はまたも無視します。
しばらくそのままでしたが、やがてマルチトレインにて問題があったらしく、確認のため私とクダリは地下鉄に乗車しました。


「・・・言われて来たわけだけど・・・」


「特に何もございませんね。」


目立ったような異常が見当たらなかったので次の駅で引き返そうとしたそのときでした。



《緊急事態発生!緊急事態発生!ATOシステムが何者かにハッキングされた模様!職員ないしサブウェイマスターは速やかに事態の解決に尽力せよ!
繰り返す!ATOシステムが何者かにハッキングされた模様!職員ないしサブウェイマスターは速やかに事態の解決に尽力せよ!》



「・・・クダリ、私は左の車両に向かいます。あなたは右の車両をお願いします!」


「りょうかい。」


ATOシステムがハッキングされたという事実に驚いたのも確かですが
このような緊急事態に陥って尚リリィ様が私の思慮の大半を占拠していることに流石の私も自らに呆れてしまいました。

(これほどまでリリィ様のことを好いているというのに未だこの想いを伝えていないとは・・・)

そろそろ腹をくくらねばなりませんね。


そんな思慮もそこそこに、いよいよ犯人探しとなるわけですが一向にそのような姿は見当たりません。

まさか、クダリのほうに集中しているのでしょうか。弟が心配になり引き返そうとしたとき。










「・・・動くな」





全身がゾワリと粟立つほどに静かな殺気を向けられ私は硬直しました。


ちらと声の主をみようとしましたがあちらのほうが上手だったようで手際よく目隠しをされてしまいました。


「・・・安心しろ。お前の弟は無事だ。
これからわたしたちの指示に従え。人質は乗客とお前の弟だ。」



いつもならばこのようなときでも冷静に最も適切な選択ができるのに。


何故でしょう。今の私にはなにも浮かんできません。
どころかどんどん焦るばかりで。


だから今の私にはこの男性とみられる者に従うしかなかったのです。


「・・・ポケモンは置いていけ。隠し持とうとしても無駄だ。」


どうやら一縷の希望さえも許されないようです。
私は言われるがままギギギアルたちの入ったモンスターボールを床におきました。


「・・・よし。」


その声と同時、私は意識を失いました。もともと目隠しで視界などなかったので大差はありませんが。




・・・しかし私はひとつ仕掛けをしました。






シャンデラの入ったボールだけ、置くのではなく軽く転がしたのです。それも、ちょうど壁に当たったときボタンが押されるよう計算して。


さすがの相手もここまでは気がつかなかったようで安堵しました。
シャンデラはなにをすべきかわかっているはず。
他人に頼ることしかできない私を、どうか赦してくださいまし。
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