そのほかの短編(Ib『なにこれチャプチェ』追加!!)
□君のために(Ibギャリー夢)
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だからいつだってこう答える。
「・・・ええ、いるわよ。」
するといつもセノは目をキラキラ輝かせて幸せそうになるんだ。
「へぇ〜!!そうなのか!?
なぁなぁ!!その色恋話俺に聞かせてくれよ!!」
「・・・なんでよ。」
「俺さ、今小説家で食ってきてるんだよ。それで、今度恋愛小説を書く仕事が入っちまってな。ネタを探してるんだ。」
・・・知っていた。セノが小説家になったってことぐらい。
留学していたって著書も全部初版で買って、保存用実読用とあった。
でもそんなこと、セノは知る由もない。
「・・・悲恋になるわよ。」
「ええ?そうなのか?
・・・それは聞いちゃ悪かったな。ごめん。ギャリー。」
ああ、やっぱりセノは気を遣う。アタシを傷つけまいとしてくれる。
それが一番傷つけるんだって、わかってるの?
「いいのよ。というか、そういうアンタはどうなのよ。」
「俺?」
「・・・アンタがちゃんと話すようならアタシも話すわよ。」
「何でそんな交換条件みたいな・・・
まぁ、いいよ。俺もね、ずっと好きなやつがいるから。」
「あらそうなの。
・・・どんな人?」
早くずっと持ち続けている淡い期待を打ち払ってくれよと思いながら答えを待つと、
「え!?ヱ!?それ聞くか!?
え・・・え・・・え〜〜〜っとぉ・・・」
セノは妙に取り乱した。
なんでそこで困るのよ、アタシとアンタの仲だというのに。
もしかしたら、アタシが思った以上にセノはアタシをなんとも思ってないのかもしれない。
そんなことを思う間にセノはおもむろに紙に何かを書いていた。
「お、お茶受けの心太がないな!!俺ちょっと買ってくるわ!!」
紙とペンを置いて風のように家から出て行った。
・・・というか、お茶受けに心太なんていらないんじゃないの?
ふとセノが置いていった紙を覗いて絶句する。
「・・・これって・・・」
そこに書かれていたのは、いや描かれていたのは、やたらワカメ・・・メッシュの部分が誇示された・・・アタシの絵だった。
さっきの会話からして何の意味もない絵とは思えない。
・・・と、いうことは・・・
「・・・やってくれたわね、アイツ。」
セノもきっと、アタシと同じで同性愛とかで悩んでいたに違いない。
それが今のアタシにとって、どれだけ嬉しいことか。
ずっと昔から好きだといっていた。それはいつから?どのくらい好きなの?
聞きたいことは山ほどあるけど・・・今はやめておこう。
輪郭の壊れた顎。無造作に描かれた髪。崩れた鼻や目や口の位置。
それでもセノが一生懸命描いてくれたことがとても嬉しくて、宝物にしたくなるくらいだった。
しかしこんなんじゃ告白文にもなりはしない。
だからこそはじめてアタシがアイツを―――セノを喜ばせられることを嬉しく思いながら、絵の隣にこう書いた。
―――俺もアンタが好きだ。
―――覚悟しろよ。
・・・近い未来、セノが話、アタシが挿絵を手懸けた本が売られるようになったのは風でもなんでもない・・・アタシたちの噂なのだった。
おしまい
※注 心太(ところてん)
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