Text-box-2

□スペシャル・ギフト!
1ページ/1ページ


※犬耳です。苦手な方はご注意を・・・

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐











スペシャル・
ギフト!














「んー・・・痛・・・っ?」



目覚ましのアラームが鳴る、ちょうど一時間前、椿は違和感と共に目を覚ました。

起き抜けのボーっとした頭で、必死に違和感の正体を突き止めようと試みる。

そして、恐る恐る自らの頭部に手をやってみた。

「・・・何だ、これ・・・。」

指に触れたのは、何やらふわふわと柔らかく、ほんのり温かい物体。

「これ・・・み・・・耳・・・?」

今度はしっかりとその物体を手で掴み、形や感触を確かめる。
結果、犬のような毛の生えた耳が、それもどうやら椿の頭から、生えていることがわかった。

「ええーっと・・・ああ、夢・・・かな?」

そうだ。
きっと、自分はまだ夢の中にいるのだ。

必死にそう思い込もうとするのだが、どう考えてもこの感触は夢ではない。

心臓がドクドクと激しく鼓動を始めた。
冷や汗が額に浮かぶ。



「ん・・・バッキー?」

パニック状態の椿の隣で、ジーノが目を覚ました。

寝ぼけているのか、意図的なのか、手を伸ばして抱きしめてくる。
そしていつものように、小さな子供にするように頭をよしよしと撫でられた。

「あれ・・・?」

「お、王子ぃ・・・!」

ようやく違和感に気付いたらしいジーノに、椿は涙目で訴える。
寝起きですら気品漂う王子様は、眠そうな目をこすってから、いつもと違う恋人を見つめた。

「おや、バッキー。すてきな耳だね。」

「う・・・っ!」

やはりこれは現実であるという事実を突きつけられ、椿は言葉に窮した。





ふわふわ。

ぽふぽふ。

ぴくぴく。



ひとしきり椿の犬耳を愛でたジーノはご満悦の様子である。

「あの・・・これ、一体何でしょう・・・ね・・・?」

「うーん、そうだねぇ・・・たぶん、柴犬じゃないかな?この色と形は。」

「そ、そうじゃなくて・・・っ!!!」

ジーノは至って真面目である。



「はぁ・・・。」

「とりあえずバッキー、朝食にしようか。飲み物はオレンジとグレープフルーツ、どっちがいい?」

「あ!スミマセン、自分でやるっス!」

「そう?じゃあボクのコーヒーもよろしくね。」

落ち込む暇もなく、いつも通りに朝食の支度を始めるジーノ。
あまりに自然な様子に、椿もつられて異常を忘れる。





「ふふっ。可愛いなぁ。」

ジーノがコーヒーを啜りながら笑う。
その視線が『犬耳』の辺りにある事で、椿はそわそわ落ち着かない。

意識的に動かす事はできないが、例えばスープの熱さに驚いた時や、今のようにジーノに見つめられて動揺すると、その部位は椿の心の動きを顕著に表してしまうのだった。

夢でないのなら、これは神様の悪戯だろうか。

こんな姿で人前に出るわけにはいかない。
近所のコンビニへ行くぐらいなら帽子でもかぶれば誤魔化せるが、試合や練習は絶望的だ。
やはり外科手術で切除してもらうべきだろうか。
いや、そもそも原因が不明なものを、医者も簡単に手術してくれるとは思えない。

ぐるぐると考えれば考えるほど、不安は増すばかりだ。

自分の暗い前途を思って泣きそうになってしまう。



「大丈夫だよ、バッキー。」

椿の不安を見透かしたような、優しいジーノの声が響いた。

「心配しなくていいさ。ボクが守ってあげるからね。」

ふわりと優雅に微笑むジーノを見ていると、何の根拠もないのに、彼に不可能はないのだという気になるのが不思議だ。

「あ・・・あざっス、王子・・・!」

「飼い主として当然の事さ。ま、とりあえず今日の外出は控えようね。」

「すみません、せっかくレストラン予約してもらったのに・・・。」

「そんなの、またいつでも行けるよ。今日は家で映画でも見よう。」

今日はドライブがてら最近できたイタリアンのレストランに行ってディナーを食べる予定だった。
このような状況でも、着帽のままで食事など、例えレストランが許しても王子様が許すまい。






「はい、おいで。」

言われるがままに、ジーノお気に入りのソファーに2人で座る。

しかし、ホームシアターの大画面で見る映画よりも、上等な温かいココアよりも、王子様は椿の『犬耳』を楽しんでいるようだ。
本物の犬にするように、耳の後ろを掻かれると、心ならずも気持ちいいと感じてしまう。
恥ずかしいので隠したいのだが、耳の動きや、赤く染まる頬のせいで、ジーノには筒抜けである。
もともとポーカーフェイスの苦手な椿に、更なる障害が増えてしまった。

「ちゃんと動くし、温かいんだよねぇ、この耳。」

「はぁ・・・やっぱり俺の頭から生えてるんスよね・・・。」

「原因はわからないけど、ボクは気に入ったよ。」

「・・・。」

完全に他人事なジーノだが、全く悪気はないようだ。
さも愛しいと言うように、犬のような耳を撫で続けている。

「ひゃうっ!!?」

「おや、可愛い反応。」

急に耳の中に指を入れられて、おかしな声が出てしまったのだ。

「や、やめて下さい・・・王子!」

「ははは。ごめんごめん。でも・・・」

ペロリとジーノが舌なめずりをする。
そのあまりのセクシーさに、くらりと眩暈がした。



そこから先の映画の内容は覚えていない。






ふと、温かな毛布の中で目覚めた時には、あの違和感が消えていた。
ジーノはしきりに残念だとこぼしているが、もちろん椿が心底ほっとした事は言うまでもない。



「結局何だったんスかね?」

「2人で同じ夢でも見てたのか、それとも神様のプレゼントだったのかもね。」

「・・・俺はもういらないっス・・・。」

少し拗ねた声を出すと、頬に優しくキスされた。

「ボクはキミがどんな姿でも、好きだよ。」













‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

どんな時でも冷静な王子が好きです。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ