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□未来予想図
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ジノバキ付き合ってて椿は寮住まい設定。

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未来予想図











「・・・ええっ!?」

自分宛てに届いたハガキを見て驚いた。
可愛らしいイラストに縁取られた写真は、生まれて間もない赤ん坊。
地元の幼なじみからの出産報告だった。

「へぇ、そっかぁ。子供生まれたんだぁ。」

半年前に出席した結婚式での、白いタキシード姿を思い出す。
最近では二十歳で父親になるというのも、世間的に珍しくはないのだろう。
しかし、椿には自分が子供や家庭を持つなんて、想像も出来ない。

(子供より先に結婚だよなぁ。それより今はサッカーだし・・・。)

椿はハガキをテーブルに置いて、身仕度を整えた。
将来の事よりも、目の前の現実で精一杯なのだ。

買ったばかりのスニーカーを履いて、恋人の元へ向かう。






「うわぁ、すっげーごちそうですね!」

「馴染みのリストランテから、オーガニック野菜と自家製パンチェッタを貰ってね。」

ジーノは微笑みながらグラスに水を注いでくれた。
『ご飯を食べにおいで』とメールをくれたジーノ宅のテーブルには、様々な料理が並んでいる。
とても二人で食べきれる量には見えないが、ジーノはまだフライパンを振るっており、更にオーブンからは芳しい香りが漂ってくる。

「どうぞ。冷めないうちにおあがり。」

「い、いただきますっ!」



ジーノが料理上手であるという事実は、ごく限られた人間しか知らない。
自分が美味しいものを食べたいという理由から腕を振るう為で、恋人である椿も簡単な朝食を数回ご馳走になった事がある程度だ。



「うわ・・・!美味いっス、王子!」

「そう?良かった。たくさん食べてね。」

お世辞ではなく本当に美味しい。
それも実家の食卓には絶対に並ばなさそうなオシャレな料理ばかりだ。
空腹だった事もあり、椿は夢中でテーブルの上の料理を食べ続けた。

「はい、エビとブロッコリーのジェノベーゼソースパスタ。」

「う、うッス!」

「ふふ。バッキーって意外と大食いだよねぇ。」

「あ、よく言われるっス。」

「そんな風に美味しそうに食べてくれると、作り甲斐があるよ。」

もぐもぐと口いっぱいにパスタを頬張る椿を眺めながら、ジーノは愛しそうに微笑んだ。

「ホントに美味しいっス。お店とか開けそうですよ!」

「あはは。あんまり人の為に作ったりはしないんだけどね。引退したら小さなリストランテでも開こうかな。」

「ETUのみんなとか気軽に来られるようなお店があったら楽しそうっスよね。」

「そうだね。ワインも充実させたいなぁ。」



その時オーブンが出来上がりを告げ、ジーノが新たな料理を出してくれた。

「パンチェッタをキッシュに入れてみたよ。熱いから気をつけて。」

そう言った本人はもともと小食な事もあって、ワインを飲むついでに料理を口にする程度だった。



『意外と大食い』な椿は、焼きたてのキッシュを頬張りながら、先程のジーノが店を持つという話を考えてみる。

こんな事はただの他愛もない世間話だ。
サッカーをしていない自分やジーノの姿など、具体的に想像した事もない。

それでも、あの幼なじみからのハガキの赤ん坊よりも、ずっと現実的に思えるのは何故だろう。

小さくてセンスのいいレストランで、ジーノの作ったイタリアンをつまみに、ワインやビールを飲んで盛り上がる仲間達を思い浮かべて、思わず笑いそうになった。



「あ。」

パスタをフォークに巻きつけたまま、ジーノが何かを思い出したように動きを止めた。

「どうしたんですか?」

「ボクが料理するって事はさ、バッキーに接客してもらわなきゃいけないよね?」

「う・・・接客っスか・・・。が、頑張るっス・・・。」

そう答えてから、ある事に気付いて、胸がいっぱいになった。

漠然とした夢物語だという事は知っている。



それでも彼の未来に、ごく自然に自分が居ることに気付いて、嬉しかった。



「あと、お酒の種類も覚えてもらわなきゃ、ね。」

「は、ハイッ!」

椿は美しく微笑むジーノに見とれながら、元気良く返事をした。








「すっげー!何コレ、うまーっ!」

「ホントに何者だよ、あの人・・・。」

「椿、いつもこんな美味いモン食わしてもらってんの?」

朝帰りした椿の土産に、世良・赤崎・宮野の、寮の若手仲間が歓声を上げた。
さすがに全ては食べきる事が出来ず、残った分をジーノが持たせてくれたのだ。
みんな食堂で朝食を済ませたばかりのはずだが、あっという間に料理が減っていく。


「マジで店開けんじゃねーの!?」

世良が椿と同じ感想を漏らした。

「王子がシェフとか想像できねぇけど、オマエが接客っていうのも無理あるよな。」

赤崎がニヤッと笑う。

「本当だ。じゃあ引退したら俺も雇ってよ。」

宮野も笑った。



(・・・本当に、実現したらいいのに・・・。)

再び胸が熱くなる。

さらに涙がこぼれそうになったので、慌てて席を立った。

「俺っ、食堂でお茶もらってくるっス!」





それが近い未来なのか、遠い未来なのか、わからない。

けれど、彼への想いが不変のものである事だけは、なぜか確信できた。
あの夢物語みたいに漠然としているけれど、確信できた。

サッカーを一生続ける事は出来ないかもしれない。

けれど、愛しい人と一生共に居続ける事は、

(出来ますよね、王子・・・!)














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以前、王子は料理しないって書いた気がしますがw
料理の出来る男ってステキですよね〜!!!!!
全く調べずに書いたので料理の描写が間違っていたらスミマセン。


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