風景-scenery-
□積乱雲カプリシオ
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リビングに座り、押し入れから引っ張り出してきた刺繍糸を目の前に並べる。
思っていたよりもたくさん色があって安心していると、それまでジッと黙って見ているだけだった総悟がふいに糸を手に取った。
「どうかしたか?」
「いや…その、なんつーか…こんなほっそい糸で作るんですねィ」
「まぁ、そうだな。太かったら切れたときの夢がないだろ」
「切れたときの夢?」
「お前ミサンガの意味知ってんの?」
「いいえ、知りやせん。ガラの悪いチャラ男がじゃらじゃら装備してる新手のオシャレかと思ってやしたけど、切れちまうんですかィ?」
真顔で聞いてくる童顔18歳。
この年でここまで無知で大丈夫なのだろうか。
取り敢えずミサンガへの誤解は解いておき(全国のミサンガ装備中のオシャレ最先端さんごめんなさい)、本当の意味と作り方を教える。
色のセンスが全く無いと言っても過言ではない総悟のチョイスは赤とオレンジと紫と黄緑というゲテモノミサンガになった。
正座を崩した女の子座りをして黙々と糸を操る姿を見て、そこらの女子よりもよっぽど可愛らしいと目を細める。
俺はロリの毛もショタの毛もないが、単純に総悟は可愛い、それだけの話だ。
「できた!」
「お。できたか」
どれどれ、と手を差し出すと総悟は怒ったように手を引っ込めた。
右手と左手を器用に使って肘をくねくねさせながら自分の手首にミサンガを付ける。
「おまえソレ景品用じゃねえのかよ」
「よし、ピッタリでさ」
「聞いてねえし。それにお前にはそういうの似合わねえよ」
「なんで?俺だってちょっとくらいチャラ男になりたいでさァ」
「だから違うっつってんだろーが。第一色が合ってないんだよ。お前にはこれくらいがちょうどいいな」
そう言って自分で作った黄色とオレンジのを渡すと、総悟は暫く考えた後またしても器用に一人で手首につけた。
新しいオモチャを賈ってもらった子供みたいに目をキラキラさせて物珍しそうに自分の手を眺める。
取り敢えず各色数本ずつ渡してその日は家に帰らせた。