舞台-theatrical-
□桜の花
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袖をつかむ俺の手を、自らの手でつかむ。
離れないくらい強い力で。
どうしよう。
何でだか急に。
今すぐ土方さんに抱きしめてほしい。
どうしよう、どうしよう。
「ねぇ土方さん。桜、見に行きやせんか?」
「桜?んなもんまだ咲いてねぇだろ」
「いーからっ!」
手はつないだまま、土方さんをひっぱり江戸の桜が綺麗な河川敷まで急ぎ足で向かう。
そこには土方さんの言った通り、まだ枝の桜が川沿いに並んでいた。
「ほらっ」
俺は一つの枝を指差し、土方さんに見せる。
そこには。
「蕾…」
「ええ」
これから咲くであろう桜の蕾が芽吹いていた。
寒い冬を乗り越え、これから綺麗な桃色を咲かす花。
長い長い寒さがあるからこそ、ここは一面たくさんの桜であふれるんだ。
「土方さんが何を考えてんのかはわかりやせんが…冬の後には春があって、また冬が来るけど…春がこないことはないんですぜ?」
「……総悟…」
ね、だから不安に思うことなんてないんですぜ?
そういって微笑めば。
俺を抱きしめて。
小さく
「そうだな…」
という声が聞こえた。
ねぇ。
冬もいつか春になるんですぜ?
綺麗な桜がさいて、暖かい空気が流れて。
ほら目を開ければ
桜色…
END
『桜の花』
(舞い散る季節に)(また来よう)