舞台-theatrical-
□鏡の中のフェアリーテール
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総悟の部屋にむかいながらホント手のかかる奴だ、なんて思っていたが実のところ俺はそんなに不機嫌ではなかった。
障子の前に立ち、中の様子をうかがう。
しーんとしていてピクリとも動かない気配。
いや、気配すら読み取れないくらい微かな生気。
「総悟?」
とりあえず声を掛けてみるが当然返事はかえってこないわけで。
「入るぞ」
俺は障子を開け、物が散乱する小宇宙へと足を踏み入れた。
「ったく、ちったぁ整理したらどうだ?」
文句を言いながらズカズカとこの宇宙の住民に近づく。
「総悟、おい総悟。そーごー」
しゃがみ込んでゆさゆさと揺すると、総悟はんんっと唸って寝返りをうった。
こころなしか呼吸が荒いようだ。
「コラ、いつまで寝てんだ。起きろって」
それでもしつこく揺さぶると総悟は眉根を寄せて半目を開いた。
「ん…ひじ、かた…さ…?」
「あぁそーだよ。近藤さんじゃなくて悪かったな」
「んぅ…別に、いいでさ…」
別にいいとかそういう問題じゃないけどそれは置いといて、らしくない返事に少し戸惑う。
元気なときはここまで目が覚めてくると俺の部屋に入るな、とかなんとか言ってくるはずなのに。
好きでこんな汚ねェとこ来てんじゃねえっつの。
もぞもぞと半身を起こした総悟に、ここに来た訳を思い出す。
「おまえ朝飯は?なんで来なかったんだよ」
「…いらねぇ」
少し的外れな答えはご愛嬌ってことで。
もともと頭の弱いコイツは寝起きとなるとさらに度を増す。
「ま、今更いるって言われても困るけどな」
とりあえず総悟に合わせてこちらも返事することにしている。
すると総悟は俯いていた顔をぱっと俺に向け不安げな目で見つめてきた。
「…困る?そっか…土方さん、困るんだ…」
そしてとても悲しそうな顔をした。
「帰ってくだせェ…俺ァもう少し寝たいんで」
俯いたままそう言われちょっとだけ傷つく俺。
でもここで引き下がったりはしない。
なぜなら俺はすべてお見通しだから。
黙ってすっと総悟に近づき、そのまるくて小さなおでこに手をあてた。
驚いて目を見開き布団をギュッと握る総悟に可愛いなぁ、なんて思いながら。
「具合悪ィんだろ?熱あんじゃねーか」
「ね、寝起きだからでさァ!」
必死に言い訳をする子供にクスリと笑いがこぼれる。
「…なに笑ってんでィ」
「ばーか。朝は大体みんな体温低いの」
マジかよ…なんて少し悔しそうに呟く総悟に体温計を渡し、計るよう促す。
平熱が35℃くらいだから37℃あったらヤダなぁ…くらいにしか思ってなかったから
総悟が差し出した体温計の液晶が39.2℃を示しているのを見てとてもビックリした。