short
□盗難
2ページ/2ページ
『ふぅん。カッコイイこと言うじゃん』
「…別に。そういうやり方が嫌いなだけだ」
獄寺はさっき注意したばかりだというのに、新しい煙草を取り出して火をつけた。
そんな様子を見て、あたしはクスリと笑いを漏らす。
「何笑ってやがる」
『今、盗難が発生したよ』
「なっ!?お前電波でも受信してんのかよ!?」
「すげぇ能力だ」とか「オレにはわかんなかった」とか。
ぶつぶつ呟く獄寺に、あたしは言い放った。
『容疑者は獄寺隼人』
「は!?お前、さっきのオレの話聞いてたか!?オレは人のモンには…――」
『容疑者にその気がなくても、人の心は盗めちゃうから』
「!」
『あたしのモン盗んだ犯人には今後、覚悟しといてもらうからね。
じゃああたし巡回の仕事残ってるし、もう行くわ』
「なっ、おい!」
葵はそう言い残すと踵を返して屋上を出て行ってしまった。
「くそっ…」
一人残された獄寺は火をつけたばかりの煙草を足元に落としてもみ消し、前髪をかき上げていやみなくらい晴れた空を見上げた。
「お前だって前科持ちだっつーの」
(だって最初からオレの心はお前に盗まれてんだから)
end