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□世界に一つのプレゼント
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慌てて携帯のメールボックスを開く。


“今家にいるか?”


『…って、なんでそんなこと聞くのよ』


あたしが家にいれば何かあるの?

あたしが家にいたって、イタリアから何かできるわけでもないじゃない。


不貞腐れながら、考えても答えの出ないことを考える。



とりあえず、電話は出れないのだろうと思い返信。



“いるよ”



我ながら彼氏に対してなんて素っ気ないメールだろう。

自分の可愛いげのなさに何だか悲しくなってくる。



返信したら、急にインターホンが鳴った。


『っ!』


予想もしてなかった音が鳴り、吃驚して携帯を落としそうになる。


『な、何?』


こんな時間に?なんて思いながら玄関へ向かったあたしは、ドアを開けてそのまま固まってしまった。



「よぉ」



目の前には会いたくて仕方なかった隼人の姿。



「…おい、何か言えよ」


『な、なんで…』


「一時帰国だ」


『や、そうじゃなくて…っ』


「おまえ、今日なんの日か知ってんだろ?」


『あ、あたりまえじゃない!何のために今日何度も電話したと思ってるのよ!』



お祝いを言うために電話してた相手に、なんであたし怒ってんだろ。

ほんと、可愛くない。



「じゃあ、プレゼント」


『は?』


「なんの日か知ってたんだろ?」


『そ、それは、そうだけど…。イタリアにいると思ってプレゼントなんて準備してないよ…』


「あるじゃねぇか」


『何言っ…』



何言ってんの、と。
そう言うつもりが言葉にできなかった。


隼人の唇があたしのそれを塞いでいたんだと、隼人との距離ができてから漸く気づいた。



「葵をもらいに来た」


『え…?』


「オレのモンになってくんねーか、葵?」



そう言って隼人はあたしの左手を取り、銀色に煌めく物を薬指へとおさめた。



突然のことに頭が付いていかない。

ピタリとはまるシルバーリングを見てから、もう一度隼人に視線を移すと、彼は少し緊張の色を瞳に宿していた。


「…返事は?」


『あ…えっと…。こんなプレゼントでいいの?』


「あたりめーだろ。世界に一つしかないプレゼントだぜ?」


『っ!…ばか』



あたしの迫力のない言葉を聞いて、はにかむように笑う隼人。


あたしは目の前の誕生日を迎えた彼に目一杯抱きついて、今日一日ずっと言いたかった言葉を口にした。


『誕生日、おめでとう!』









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