short

□この気持ちはなんだろう
1ページ/1ページ



『せーんぱーい!』



あぁ、また来た。



『あ、かわいい鳥連れてますね!いつ飼いはじめたんですか?』



騒がしい草食動物。



『名前とかはつけました?』



今年入学してきた一年の女子。



『先輩、聞いてますか?』


「君、うるさいよ。そんなにいっぺんに質問して答えられると思ってるわけ?」


『あ、聞いてくれてた!』



最近の僕は変だ。

はにかむように笑うこの女子から目が離せなくなる。



「…別に飼ってるわけじゃない。勝手について来たのさ」


『え?先輩意外に動物に好かれるタイプなんですか!?』


「意外に、は余計だよ」



この女子――月咲葵は、女子にしては珍しく群れることをしない。



『だって、女子の群れってグチグチしてるしなんかめんどくさいじゃないですか』


なんて、この前聞いてもいないことを僕に語ってた気がする。




「それから、名前なんかつけてないよ」


『えー。名前つけましょうよ!』


「いらない」



フイ、と彼女から視線を外し、持っていた書類の束を持ち直して応接室へと足を進める。



『あっ、ちょっと、雲雀先輩!』


「何?君の質問には答えたよ」



止まりも振り向きもしないで返事をすると、案の定彼女は急ぎ足で僕の左隣に並んだ。



『ちゃんと名前つけないと呼んであげられないじゃないですか』


「…僕は名前で呼んだりしないからね」


『確かに私も呼ばれたことないけど…』



むすーっとした顔をする彼女が何となく可愛く見えてしまい、慌てて彼女の反対側を向いた。


すると「そーだ!」と言う声が左から聞こえてくる。

何が「そーだ」なのだろう。



視線を戻すと、彼女は人差し指を立ててさっきとは一変。

無邪気な顔をしていた。



『…じゃあ私がつけます!んーと……あっ!雲雀先輩の鳥だからヒバードとか!?』



笑う彼女とは対照的にため息をつく。



「好きにすれば」



言葉や態度とは裏腹に、不思議とこのやり取りは嫌いじゃなかったりする。




応接室前までたどり着くと彼女はニコニコ笑いながら応接室のドアを開けた。


書類を持つ僕を気遣っての行動なんだろう。




『どーぞ!』


「……」



無言で中に入る。

すると、彼女は敬礼するように右手を額のところまで持ち上げ微笑んだ。



『じゃあ雲雀先輩、ヒバード可愛がってあげてくださいね!』


「わかったよ。…………葵」


『!』


「じゃあね」



言って、ドアを閉める。

最近、やっぱりおかしい。
基本的には人の名前を口にすることは少ない。


あんなタイプの人間は、いつもなら鬱陶しくて仕方ないのに。
彼女に限ってそう思うことはない。




こんな気持ちになったのは彼女が初めてだ。



…仕事に集中できない。

どうしてくれるんだい―――月咲葵。








この気持ちは何だろう






《アオイッ、アオイッ!》

「っ!…うるさいよ」


最近の委員長のお悩み。




(この気持ちが何か気付くのはもう少し先のお話―――)




end
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ