サイト開設記念リク

□紙模様/baroque様
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「銀さん、そろそろ離してください。これじゃお洗濯物が畳めないわ」


困った様な表情を浮かべつつも柔らかな口調で銀時の手を撫でるお妙の後ろには、紺の着流しに羽織りを掛けただけの銀時がぴったりとくっついている。


「さみーし、お妙あったけーし、俺がおめーの夫な訳だし?」

不満げに妙を抱きすくめた銀時に小さく、しかし聞こえよがしに溜息を吐いてから手を止める。そのまま思い切って後ろに倒れ込むと、銀時は軽く悲鳴を上げつつも妙を受け止めた。思わず声を上げる、曰く


「危ねーだろがっ!!」


「じゃあ何ですか?銀さんはか弱過ぎて私を受け止められないんですか」


自分が重いだとか言わない所がお妙なのだ。寧ろ其処も好きなのだと腹を括って久しい銀時は、仰向けに二人で寝っ転がったままお妙に手を回して立ち上がる。


「ちょっ 銀さん!!」


乃ちお姫様抱っこである。慌てるお妙を他所に至って真面目な銀時は横抱きにしたまま縁側まで出て、漸くお妙を降ろす。顔の紅潮が収まらぬ内に、自分達を呼ぶ声が聞こえた。


「銀さーんっ!!手紙が届きましたよーっ」


「アネゴぉ、顔赤いアルヨー!其処の天パに何されたアルカっ!?」


庭からは箒を肩に掛け、右手に白い封筒を幾つか掲げた新八が、そして縁側の端からは先程の"抱っこ"を偶然見かけたのであろう神楽がにやけながら走ってくる。


新八の様子からすると、どうやらその封筒の差出人は先日エリザベス経由で出した手紙の宛て先のようだ。
暫く顔どころか声さえも聞いていない江戸の知己が脳裏に浮かび思わず微笑を浮かべる。しかし年頃の神楽には怪しげな笑みにしか見えなかった様でその駆ける勢いのままに突進してくる。慌てて猛スピードの塊を受け止め、本日二度目の温かい衝撃を感じる。このやたらに温かい存在は今や、誰にも否定されない自分の家族なのだ。などと感じて感慨に耽っていると、今抱き合っている神楽を何よりも大事にする青年が怒鳴ってくる。


「銀さんっ!!神楽ちゃんから離れて下さいよっ」


「愛する妹との抱擁に水差すたーいい度胸じゃねーの」


銀時とお妙が夫婦となる決意をしたのは、新八と神楽が共に一人前とも呼べる年齢になり、家族の中での微妙な変化にも柔軟な対応が出来るだろうと判断したからだ。


しかし、銀時のある過去により江戸を追われて四年が経ち、元々家族としての愛で結ばれていた筈の二人の間にも少なからぬ変化が起きていたらしく、銀時と妙が報告する直前にそれなりの遣り取りを踏んで誓いを立てていたと返されて反対に此方が驚いてしまった。そして、其れ程までに自分達で手一杯だった事にも気づかされた。


「じゃ、開けますね。先ずは…神楽ちゃん宛て、よっちゃんさんからの手紙ですよ」


封筒を開く新八の肩に神楽の頭が乗る。恐らくは単なる好奇心故の行動なのであろうが、当の新八はいい年齢で有りながら顔を上気させている。

ゆっくりと手紙が読まれる。
暖かい日溜まりの中で四人は、正真正銘の家族なのだという事を改めて噛み締めながら今でも脳裏に鮮やかに蘇る江戸の街並みに思いを馳せていた。
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