サイト開設記念リク

□漂流せし銀の行方/美咲様
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蝉の鳴き声に突き刺さるんじゃないかと思うほどの太陽光線。立ち上る陽炎に揺れる大輪の向日葵。そう、最も爽やかで最も熱い季節…夏である。



そんな初夏の或る朝、江戸はかぶき町に店を構える万事屋の従業員志村新八はいつも通りの時間に起床した。



薄い掛け布団を畳んで押し入れに上げ、一先ず着替えてから居間に出る。軽く朝食の準備をしてから押し入れに向かって叫ぶ。



「おはよう神楽ちゃん。結局銀さん帰ってこなかったみたいだから、先に朝ご飯食べちゃおうよ。」



そういって机に食器を並べていると、神楽も襖を開けて出てきた。眠たげな眼ではあるが取り敢えずは長椅子に座り、ご飯の盛られた茶碗を受け取る。



「銀ちゃんまだ帰ってないアルカ…?昨日、夕飯までには帰ってくるって言ってたのに」



寝起きのゆったりとした口調で神楽が口を尖らせるが、新八は呆れ顔をする。



「まぁ 銀さんの事だからね…でも、こう何度もだと此方も面倒くさくって仕方ないよ。」



若干冷めてしまった味噌汁を啜っていたが、椀を置くと衿の辺りの空気を換える。



「やっぱ暑くなってきたなー。季節の変わり目は風邪とか引きやすいみたいだし神楽ちゃんも気をつけてね。」



「おーヨ、行ってきまーすっ」


着替えた神楽が意気揚々と出かけていく。
その元気な様子とは掛け離れた儚い白い肌が初夏の日差しに負けないといいのだが、などと思いながら食器を片付けていると、不意に玄関の戸が乱暴に開かれる。



「この子、落ちてたヨ」



にこにこと笑顔を浮かべた神楽が抱いていたのは、見慣れた銀髪によく似た容姿の幼児。



「神楽ちゃん!?なにしてんの!つーか色んなもの勝手に拾ってきちゃダメっていってるだろーがっ!!」





「しーっ 声がでかいアル眼鏡。この子寝てるヨ…それに、ちゃんと顔を見るネ」



神楽が腕の中で子供の向きを変えると新八にもその容貌が確認できるようになる。


「..え、神楽ちゃんもしかしてちっちゃい子が好きだったの…」



刹那どごっ という効果音と共に新八の顔もとい眼鏡が陥没する。
途端血液の流れ出す鼻を抑えた新八が漸くその幼子を覗くと、思わず声を上げてしまった。



「この子…銀さん似だよね?ってか髪が銀髪パーマな上にこのふてぶてしい感じ..もしかして、今度こそ銀さんの隠し子っ!?」



新八がかなり真剣な表情でしげしげと子供を眺めるが、神楽は全く気にしていない。
起きる様子がないので和室の布団に寝かせ、二人はその横に正座する。


「あっ 眉がちょっと寄った…人を馬鹿にしてる時の銀さんそっくりだ..。本当にあのダメ人間なのかぁ…っ!!」



「こんな可愛い子放っといて何処ほっつき歩いてるネ。帰ってきたらただじゃ済まねーアル天パ!!」



幼児を前に子供達がギャーギャーと騒いでいると、騒音が障ったのか銀の子供の目が開かれてしまった。



彼は目を見開き、周りの状況に戸惑ったようだが俊敏に立ち上がり、床を蹴った。

窓際までくると近くに落ちていた銀時の木刀
…傷だらけになってしまったので新しくしたのだが、まだ捨てていなかったのである…
を胸の前辺りに両手で寝かせるように構える。



明らかな威嚇に新八だけでなく神楽も驚き、下から睨んでくる幼子から視線を外さずに小声で会話を交わす。



(えっ なに?怒らせちゃったの?怖がってるんだよねアレ…本当に銀さんの子供だったら刀なんて持たせたらヤバいんじゃないの??)



(ビビってるアルカ新八ィ。でもこの子、夜兎の血が騒ぐくらい強い筈…でも今は違うヨ。ごっさ怯えてるアル…)



二人はゆっくりと屈むと名乗り出る。順に名前を言い、銀の子にも名前を聞くが彼は首を振って逆に歯を食いしばってしまったようである。



新八がお茶を煎れてこようと神楽と銀色の子を置いて部屋を出た時、丁度チャイムが鳴った。


「おはようございます、って桂さんっ?あっ丁度いいや、銀さんは居ないんですけどちょっとあがって貰えませんか?色々大変で…」



新八の問いには答えず、桂も自分の用があるといって万事屋に足を踏み入れ、居間に通される。



新八が椅子を進めようと振り向いたが、桂はおもむろに懐を探り、何故収納できていたのか不明である大きな風呂敷包みを取り出した。



「これは…なんですか?」



手渡された新八は首を傾げつつも風呂敷を解く。
包まれていたものは新八の予想を裏切り、なんとも見覚えのある…



「銀時の着物と木刀だ。尤も刀の方は真っ二つだがな。どうやらまだ片付いていないらしいな」



「それが、今朝万事屋の前に…」



眉間に皺を寄せた桂に、新八が和室をちらちらと見ながら説明を始めようとした。その時…



大きな音と共に襖が倒れ、中から先程まで寝ていた小さな子供
…神楽が面倒を見ていた筈であった銀髪の子が飛び出してきた。



彼の手には変わらず木刀が握られ、受け身を取って転がった後中から出てきた神楽に刀を向ける。



「ごめん新八ィ なんか銀ちゃんの刀手放さないヨ」



警戒心を剥き出しに神楽を睨む子供に、向かい合う神楽もそして居間の入り口付近に立つ新八も、手をだせずに膠着するかと思われたが…



「銀時、貴様暫く見ない間に随分と若返ったものだな。確かにそれはお前の物だ…こっちへ来い。」



桂の言葉に三人が見開くが、銀時と呼ばれた子供だけは刀を右手に握ったまま…神楽や新八に近づかないように桂のもとへ駆け寄る。



そして桂を見上げると、小さく睨んでから初めて口を開いた。




「なんで俺の名前知って…?アンタ、先生の知り合い?」




たどたどしい子供の喋りであったが、それだけで口を閉じてしまった。桂は溜め息を吐いた後、銀時に目線を合わせるようにしゃがんだ。そして大真面目な顔をして口を開く。





「…いいな銀時、よく聞け。お前は万事屋のいい加減なオーナー、坂田銀時だ。」




「へ?」


幼い銀時の、状況にそぐわない酷く間の抜けた声が万事屋にこだました。








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