サイト開設記念リク

□副総督の沈黙/たまき様
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昼下がり、高杉所有の拠点の一つである邸宅の一室。そこには庭に面した部屋の襖を開け放して寛ぐ二人の男が居た。



縁側に続く柱に凭れている紫がかった黒髪の男が、皮肉気に口を開く。



「銀時ィ…近頃は随分と犬共に懐かれてるらしーなァ。しかも見廻組の件では佐々木がおめーに手ぇ出したとか。」



「あーあれかー。..つーかおめーに関わった奴らの所為で厄介事に引きずり込まれるっての多くね?二重スパイどころじゃねーじゃん…」



縁側に寝転んで軒下に暮らす猫と戯れていた白髪の男が不満げに見上げれば、黒髪の方は目を閉じて口を歪める。



「ふん、てめーは俺がなんと言おうと好き勝手な道理通すんだろーが。俺ァ万事屋の銀髪店主とはなんの関わりもねェしなぁ。」



くつくつと笑う高杉が降ろした腕の先では、寝転がった銀時の癖の強い銀の毛を弄る指先が滑った。



「ん?おい高杉ィ、そろそろ時間なんじゃねーの?」



ごろごろと寛いでいた銀時が身を起こすと、周りの猫達がその膝の上に攀じ登ってくる。銀時はそれを一匹ずつ撫で始めてしまった。
その仕種に目を細めた高杉は再び手…今度は両手を伸ばして銀時の着物の袷を直す。



「幽霊副総督さんにゃ、きっちり働いて貰うとしようか。仲間の前で気ぃ抜き過ぎる訳にはいかねぇと言っただろう。」



「士気が下がるってか?大丈夫だろ、あいつら常にノリノリだから。」



半笑いの銀時が言い終える前から鳴り響いていた足音が間近で止まり、廊下へと繋がる襖が勢い良く開く。



「晋助様ぁぁぁ!!」



「あながち間違いじゃねぇ…」


来島の開口からの叫びに高杉も苦々しく目を閉じる。膝の猫達も驚いて逃げてしまった。
更に間を空けず来島の後ろから走ってきた神楽も到着する。



「また子ぉ、おまえまだシミ付きパンツ引きずってるアルカ?まったく面倒くさい奴ネ…」



下らない理由で追い掛けっこをしていたのであろう二人は暫く言い合いを続けていたが、高杉と銀時がさっさと歩き出したのを見て中断する。



「銀ちゃんっ!真選組とドンパチやるって本当アルカ?攘夷とかやってるのバレてしまうヨ?」



前を歩く銀時を追い掛けながら叫ぶ神楽に、振り向いた銀時は口に人差し指を当てている。



「ん訳ねーだろっ!ちょっとからかってやるだけだっつの…あんまでけー声で言うんじゃねーぞ。」



「おせェ…」



神楽を抑えている内に銀時の足も止まっていたらしく、前を歩いていた高杉が痺れをきらして戻ってきたのであった。



「なんなら銀時、おめーに斬り込み命じてやってもいいんだぜ…そうすりゃ晴れて真選組とは敵同士だァ。」



「なに怒ってんの?…嫉妬ですかコノヤロー。つーかバレてないってだけでなぁ…充分敵じゃね?」



鬼兵隊発足よりの副総督である坂田銀時。彼の職業といえば江戸はかぶき町に店を構える万事屋であろうが、裏では攘夷志士でも伝説と名高く、白夜叉と渾名されている男だ。



とは言え、黒でも白でもなくグレーと噂されるだけあって裏と表という程の区別もない自由な暮らしぶりである。例えば、街の住民と共に倒した天人が鬼兵隊としての標的であったりするのだ。



「つーかさつーかさ、なんで真選組襲撃?しかもこの謎な配置もわけわかんねーよ。神楽も新八もいらねーじゃん…」



「その方が面白れェからだァ。二進も三進も行かなくなった犬共が吠えるのも存外見物だろうよ」


「そーかい…まー、相も変わらず悪趣味だねィ。」



呆れ顔だった銀時が俯きがちに口角を吊り上げる。長い前髪の下、夕焼けに照らされた紅き瞳が愉しそうに輝いた。
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