短編

□渡る紅
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今年の夏はとにかく暑かった。



何もない日はずっと炎天下の中川で遊んでみたり、そのあと陣全体が夏バテで攻撃をしかけるどころじゃなくなって、ヅラが怒ってたっけなぁ それでも武士かっ とかいって…




そーゆーのってやっぱ夏の風物詩っぽくって好きなんだけどな…





今は夏とは違う。いよいよ幕府が本格的に態度を翻し、俺たちみたいな 邪魔者を根絶やしにきてる。





楽しい夏が終わり、暗い秋がきたってわけだ。





たぶん今年の冬、最期を迎えることになる。正直いって勝ち目はない。





だから、俺は…





小さな戦場の中、半数を占める天人の中の一陣がたったひとりの白い男めがけて武器を振り下ろしつつ、叫ぶ。





 「白夜叉ァっ!」





そう呼ばれ、取り囲まれた白い鬼は、歯を食いしばって刀を薙ぐ。






剣に巻き込まれた仲間が吹っ飛ぶと、天人達の声も大きく、耳障りな者へとかわり、次第に聞こえなくなる…






わかりやすい程俺を憎んでいるとわかる声で鬼の名を呼ぶ天人達。






もちろん負けたりはしない。






だから、こいつらみたいに、その家族や友人、親戚なんかまでが俺に報復しにくるってことだろ。












じゃあこいつらって あの時の天人を殺さなけりゃよかったんじゃねーの?





敵を斬って、斬って、斬りまくって、それが 何になるんだ?





振り返り、自分を恐れる仲間である筈のヒト達を見る。






俺は何を…





この前戦った後に、怪我の治療をしながら何人かが呟いていた言葉。 





「今日も“白夜叉様”の大活躍だったなぁ…」



(そうかもな。)




「あいつら、白夜叉しか眼中にねぇって感じだったよな。」




(そうだな。)





隊の後ろにいたが、一行から離れもう一度さきほど文字通り命をうばいあった戦場へと踵を返した。








気分が悪くなる程に血と火薬の匂い…そして屍の山。






空までもが暗く、陰鬱とした風景だった。




(もし俺がこいつらとおんなじ星とやらに生まれ育っていたら、こいつらは仲間で、陣の奴らは敵で、命を奪い合ったかもしれねェってか…    その通りだな。)





顔を上げ、帰ろうとっゆっくり方向を変えると…





一面の真っ赤な地面がひろがっていたー






「おいおい、なに?俺死んじゃったの?」





考えてみれば、帰りに声をかけてきた奴も、肩を叩く者もいなかったし、別動隊だったからヅラや高杉はいなかったから、話すような事もなかった…―?





目を擦り、もう一度眼前の光景を見据えると






 「彼岸花…か?」






ここ最近花を見る暇などなかったから、なんとなくあやふやだが、この赤くて不吉な花は―






まるで自分の立つこの血腥い戦場と、仲間がいる日常…ヒトの世界を分断してるみたいに見えた。





俺は、戻れるのか?






冷や汗をかき、震える手を恐る恐る 彼岸へと伸ばす…







「はっ!]



 「起きたか銀時。お前が倒れてから3日も経っているのだぞ、驚いたか。」





真面目なのかふざけているのかわからないセリフをいたって真面目に放ちながら




上体を上げるのを手伝ってくれるヅラに、その後ろにたつのは辰馬の野郎。





んでもって部屋の隅っこで居眠りをしてる高杉。





…どうやら俺は助かったらしい。




あの時差し伸べられた手の感触を思い出す。あれはこいつらだったんだろう






しかし、後ろからも誰かに押された気がする。あれはもしかしたら…





「金時ィ、いまは混乱しとるきに覚えてないじゃろうが、高杉庇って死に目をみよったんじゃ。ほがな真似、もうさせんから、覚えときィ…」





「銀時だっつーのっ! わぁってるよ。今度はあたんないように気をつけるからさ」





「おんしゃあ…」




まだなにか言いたそうなのを無視して 怪我の具合を診てくれてるヅラに甘味をねだったが、断られた。




辰馬が笑い出したので枕を投げてやると見事に顔にヒット、投げ返された枕が何故か桂に当たり、枕投げが始まる。




仕舞いには高杉が起き出して怪我人を挟んだ死闘が始まる始末。




一段落して、3人が部屋を出ていった後で布団に寝転ぶ。





古い家屋の天井を見上げ、途端襲ってきた睡魔に身を委ねながら思う





先生。俺はこんなんだが、もうちょっと生きていたいって 思うんだ。

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