長編

□鬼が嗤う
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「ちょっと神楽ちゃん! あっ 銀さんまで、まったく.. 」


 江戸はかぶき町、人情の街の一角に佇む万事屋では怠惰な2人と呆れる少年のお馴染みの光景が繰り広げられていた。




しかし、今日に限ってはそれも仕方のないこと。あらゆる商店は軒並み休業である。





寺子屋も飛脚も待機状態といった所か…



とにかく空からはバケツでもひっくり返したかのような大雨が降り続け、
何十年もこの街に息づいている大木が強風に煽られ、枝は葉も引きちぎられて窓に叩きつけられているのだ。




先ほどから薄すぎる万事屋の窓は、割れてしまうんじゃないかと心配するほどの音を立てて揺れて続けている。




江戸中の人間がだらだらと退屈そうに、この今世紀最大の威力を誇るといわれる台風が過ぎ去るのを待っているだろう…




しかし、万事屋の家政婦兼従業員の志村新八に限っては、こんな日でもテキパキと家事をこなしている。



今は、昨日取り込んだ洗濯物を畳みながら(昨夜は台風に備えていなかった事に気づいて慌てて外に飛び出してしまった為に放置していたのだ)


 他の従業員のだらけっぷりに注意を促すという母親奥義を駆使している訳だが…。



「おい新八ィ、ジャンプ買ってこいよジャンプっ! ったくこんな日に昼寝くらいいいだろーが!

  あーなんかこねぇかなっ なんか起きるんじゃないかなっ! 」


「まじでかっ!? 今日は暇過ぎるヨっ どんな事件もどーんとこいネっ!」


当の怠惰な2人組みは呑気である。流石に退屈なようだが、家事を手伝う素振りは無い…




新八は呆れつつも寺門通のニューシングルを口ずさみながら先ほどの衣類を棚に仕舞っていく。




途端、台風が過ぎ去るのを煩くもただ待つだけだと思われた万事屋の近くに一際大きな雷が落ちた。




そして、屋根を打ち付ける雨音のせいかやや控えめないつも通りの間延びしたメロディが



 ピーンポーン ピーンポーン…



新たな事件の始まる合図が、鳴り響いた__
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