ギャグ日 短編

□恋  竹馬
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私にはわからないことがある。
私は人間ではないから理解することが難しい事柄なのかもしれない。

いつもの池の中で、水面が輝いているのをただ見つめる。

そうして、再び思考の海の中に沈んでいく。

そう…私が理解しがたいと思っていることなのだが……


「竹中さーんっ!」


……タイミングの悪い呼び出しだな。

そう思いつつも、その呼び掛けに応えるべく、水面に向かって泳いでいく。

ばしゃっ、と、音をたてて水面から顔を勢いよく飛び出す。


「やあ、太子。どうした?」
「聞いて聞いて〜!今日妹子にこれもらったの!」
「それは…なんだい?」
「聞いて驚いちゃだめだぞーっ!なんと、四つ葉のクローバーの栞なんでおま!!」


えへへー、とだらしなく太子は笑った。


「どうしてイナフはくれたんだい?」
「んー、わかんない!」
「え?」
「なんか、わかんないけどくれた!!」


そう、これが分からないのだ。


「恋人だから…?」
「多分そうかなー。前に私が四つ葉のクローバー好きなの教えたらくれたんだーっ!」


恋人。


「ねぇ、どうしてイナフは太子と恋人なの?」
「え………。………わかんない…。」
「分からないのに恋人なの?」
「んー、私も恋ってよくわかんないんだけど、気付いたら好きになってたんだよね。」


恋。
好き。


「……わからないなぁ…。」
「竹中さんは恋ってしたことないの?」
「………そもそも恋ってなんなんだい?」
「そこから!?」


わからないんだ。
「恋」っていうものが、理解できない。


「えっとねー……んー、じゃあ、竹中さんは私のこと好き?」
「もちろん好きだよ。」
「妹子は?」
「好きだよ。」
「じゃあ、ゴーレム吉田さんは?」
「好きだよ。」


なんなんだろう、この質問。
好きじゃなかったら、そもそも話さないし、会わない。


「じゃあ、この中の皆は同じ好き?」
「…好きって種類があるのか?」
「なんとなくで良いから!」


好きの違い…ねぇ。
太子はアホだけど、話してて楽しいし。
妹子はどこかずれてるけど、面白いし。
ゴーレムさんは頑固かと思いきや、割りと物わかりいいし。


「…皆、同じく好きだな。」
「じゃあ恋じゃないんだよ。」


わけがわからない。


「恋って、簡単に言うと、多分、特別な好きってことなんだと思う。」
「特別……。」
「そう!好きすぎて夜に眠れなかったり、今何をしてるのか気になったりするのが恋!!」


好きすぎる…。


「面倒くさいな、恋って。」
「だから大変で、楽しいんだよ。」


でも、もしかしたら………。


「太子。」
「ん?」

「私は恋をしているかもしれない。」

「へー……って、えええええええ!?」


太子は目を見開いてワンテンポ遅いリアクションをとった。


「え、まじで!?」
「かもしれないな。」
「えええええええー…」

「そいつの事が気になって眠れない日がある。
何をやっているのか気になってイラつく。
気が付いたらそいつを探している。
…それは恋か、太子?」

「立派に恋だと思う…」


そうか、これは特別な好きなんだな…。

今日は思わぬ収穫があったな。
恋とはどういう物なのかを知りたかっただけなのだが、まさか自分も恋をしていたとは……。


「時に太子。」
「な、なに?」
「好きになって、恋人になるにはどうしたらいいんだ?」
「告白、したらいいんじゃない?」
「何を告白するんだ?」
「そういう切り返しがくるなんて予想外だった!」


告白…、なんだそれは。


「えっと、自分の気持ちを相手に告白するの。」
「太子は何て言われたんだ?」


すると、太子の顔は瞬時に真っ赤になった。


「……言わなきゃダメ…?」
「出来るならアドバイスが欲しいからな。」
「……"太子愛してます!太子だけに僕のカレー作ります!だから付き合ってください"ってあああああああああああああああ!!!!!恥ずかしい!何これ罰ゲーム!?」


……ラブラブだな…。
聞くだけで恥ずかしい。
いや、私から聞いたんだが。


「成る程、わかった。
相手が次に来たときに告白をしてみよう。」
「は、早くない…?」
「いや、むしろ私が自覚するのが遅かったな。」
「…?そうなんだ。」


すると、タイミングよく太子を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あ、妹子だ!」
「太子、行きなさい。」
「うん!!バイバイ」


そういうと太子はイナフに向かって一目散に走っていった。

恋人…か。

「なんとなく」、「多分」……恋とは不確かで、曖昧なものなのだな。

さて、気持ちがスッキリしたところで一眠りでも………


「竹中。」


あ。


「やあ、馬子。」


来た。


「お前の回りは随分騒がしいな。」
「いつからいたんだ?」
「5分ほど前だ。」


蘇我馬子。
私の旧友だ。
この池に住まわせてくれたのは馬子だったりする。


「話を聞いてしまって悪いのだが…、ほんの興味心だ。お前の好きな奴とは誰なんだ?昔からお前はよくわからなかった。」
「ああ、実はそれで少し話があって。」
「なんだ?」

「馬子愛してる。馬子のおにぎりを食べたい。だから付き合って。あってる?」

「私に確認されても困る。」
「そうか。馬子のおにぎりを毎日食べたい、の方がよかったか?」
「毎日なんて、そんな暇はない。」
「……で、返事は?」


馬子は、フン、と鼻をならした。


「随分と遅かったじゃないか。」
「すまない。自覚してなかったんだ。」
「私は自覚しとった。」

「じゃあ」


私は陸に上がって、馬子の手をとった。


「これからもよろしく頼みたい。」
「今までと大して変わらんだろうに。」
「まあ、気分がでるじゃないか。」



そして私達は晴れてお付き合いをしだしたのだった。

私達が出会ったのは、かれこれ40以上も前だ。遅すぎるのかもしれない。
けれど、やっとスタートラインに立てたのだ。

少々浮かれても罰はあたるまい。











後日談。


「…竹中。」
「なんだい?」


馬子のやってくる頻度が以前よりも高くなった。


「おにぎり以外に食いたいものはあるか?」
「馬子の作ったものならなんでもいいよ。」


なんて、私も甘いことを言うようになった。


「ところで、なんでおにぎりなんだ?」
「馬子に初めてもらった食べ物だから。」


すると馬子は思案する顔つきになり、心当たりがあったのか笑った。


「ああ、あの時か。
お前が空腹で倒れて、私の昼飯をわけてやって…」
「そうそう。今でも覚えてる。
というか、馬子との思い出なら全て覚えてるよ。」


すると馬子は、少し頬を染めて、恥ずかしい奴、なんて言った。


「馬子って…可愛いよな…。」
「50越えた男にいう言葉じゃないだろう。」
「うん。でも可愛い。」
「〜〜っ私は朝廷に戻るっ!!!」
「うん。バイバイ。」


馬子の後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

結局は、今までとはそこまで変わらないけれども、確かに何かが違った。


















そうか、これがか。






















ちなみに余談だが、太子にこの光景を見られていて、非常に驚かれた。
更に馬子にも叱られることになるのだが、それはまた別のお話。

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