文★一周年企画★

□あの空に咲いた夏の花
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母が亡くなった。

それは家族で訪れた秋彩祭りから半年後の春の日。

青い空にいくつも桜が散っていてひどく晴れ渡り

元々病弱な母が苦しみからやっと開放された様な

穏やかに笑っている様な

そんな陽気だった。


家はいつも賑やかな家族だと思ってた。

"師範"と皆から尊敬される父と、
病弱ながら笑顔のたえない母、

そして多くのお弟子(でし)さん達に囲まれた生活は本当にいつも誰かが居て

そこには笑いが絶えなかったから
小さいながら"薫ちゃん家は賑やかだね"って言われるのがたまらなく嬉しくて自慢だった。


幸せだった

賑やかだった笑い声の中に
母の穏やかな笑顔が消える。


ひとつ、ひとつ、何かが終わり

ひとり、ひとり、人がいなくなる。



一昨年父と見た秋彩祭りで、散りゆく色に照らされた父の横顔が、泣いている様に見えた。


最後の記憶。







―――――――

――――――

――――


夕陽が落ちすっかり暗くなった頃、薫は神谷道場に着く。


先に行ってる様に言ってあったので、久しぶりに神谷道場はもぬけの殻だった。


机に弥彦の殴り書きの字で

「早く来ねぇと食いモン全部なくなる
からな

祭りに浮かれて合流するまでに怪我すんなよ、ブス。

ブスが怪我すると剣心うっせぇからな


と書いてあった。"ブス"と書いてある事に一瞬イラッときたが、
"気をつけて来い"と一言書けば済むものを、相変わらず素直じゃない可愛い奴だ、と思う。


剣心はきっとギリギリまで待っていたのだろう。
皆の分の湯飲みが飲みかけで机に残っている。

おろ〜!っと彼特有の言葉を残して、引きずられる様にして祭りへ向かったのであろう。


なんだかその様子が目に見えるので可笑しい。

それを考えつつ淡い青色の浴衣に着替え水色の帯を締める。

剣心には濃い群青色の浴衣に黒帯、弥彦には薄鼠色の浴衣に黒帯、恵には淡紫色に紫色の帯をこしらえた。


夏祭りの鮮やかさとは違い、秋彩祭りは渋目な色合いを着て行く人が多いためだ。
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