文★一周年企画★
□あの空に咲いた夏の花
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―ドォォン…パラパラ―
「あっ!花火!!父様母様、始まっちゃったよ!早く早く!」
「こらこら、薫!あんまり急ぐと母さんが疲れちゃうだろう??」
「ふふふ
薫は父様におんぶして貰って上機嫌なのね」
―ドォォン!パラパラ…―
昔見たあの空は、今も思い出す度に何個も綺麗な花を夜空に咲かす。
「きれい…
あの花火母様みたい」
私は父の肩ぐるまから見える空の近さが好きだった。
「…でも母様は花火みたく消えちゃ嫌だよ??」
返事がないのを不安に思い、ふと空から母様を見下ろした時
頬からキラリと光る粒が何度も花火に照らされて落ちていったのを今だに忘れられない。
最初の記憶。
〜あの空に咲いた夏の花〜
あの暑い闘いのあった夏がいつの間に終わりを告げ、カラッと涼しい風が秋を告げる。
薫は出稽古先からとぼとぼと帰りながらため息をはく。
のろのろと歩くその様はいつもの彼女らしく凛としていない。
だが今日の東京の街は一味違った。
もう夕刻を刻んでいるというのに、朝の街並よりもみな世話しなく動きまわり、今宵の準備へと取り掛かる。
事の発端は一ヶ月前にさかのぼる。
大きな
秋彩祭り(しゅうさいまつり)があると聞き付けた左乃助が皆で行こう、と誘ってきたのだ。
左乃助は祭りや賑わい事が大好きなのでやけに張り切っていた。(あとは上手く奢らせてタダ飯を食べようという魂胆か)
結局皆で行こう、という話しになった。
あの夏の闘いもあり、せっかくだから…という空気を読み承諾したが、実を言うと薫はあまり乗り気じゃなかった。
だが、やはりみな楽しみにしているので薫なりに裁縫という分野の得意な事を生かし、剣心、弥彦、恵の浴衣をしたて上げた。(左乃助だけにはいつもの服で行くと断られたが)
そして迎えた今日。
本当なら出稽古なんてなかったのだけど、前川先生に無理を承知で出稽古を入れて貰った。
剣心には遅くなるから皆で先に行ってて、と皆用の浴衣とご飯代を渡してきた。
そうでもしなければ鋭い剣心の事…
何かを察知して待っていたりしてしまうし、
万が一薫があまり行きたがっていないと知ると、きっと自らも― 行かない ―と自己犠牲をしそうだ…
いや、きっと彼のこと…
例え薫がそれを望まなくても心配して側に居てくれるだろう。
優しいのだ。
でもせっかくだから台なしにしてほしくない。
「…さて、私はどうしようかしら…」
ゆっくり帰って花火の後半頃に皆と合流すればいいか…
と彼女は野原に腰を下ろした。