捧げ物、頂き物

□夢現
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「レビィ?おいレビィ!!」

「レビィしっかりしろ!!」

薄れ行く意識の中、ジェットとドロイの声が聞こえた。





夢現






レビィが倒れた。

ジュビアと共に任務から帰ってきたオレの耳に真っ先に飛び込んできたのは、そんな叫び声だった。


「おいちび!?」

「ガジル!!」

一瞬動かなくなった足を無理矢理前に進ませ、円の中心にいるレビィに駆け寄る。

ぐったりと四肢を投げ出しているレビィを抱き止めているジェットがすがるような声を上げた。

「ガジル!レビィがっ熱が酷くて!」

「落ち着け!!取り敢えず寝かせろ!!」

この際床でも仕方がない。
混乱するドロイを制してレビィを床にそっと寝かせた。


「はっ…ぁ、」

浅い呼吸を繰り返すレビィはあまりに苦しそうで、見ている側が辛くなりそうだった。

生憎、今はウェンディも、ミラジェーンもいない。
次するべき行動がわからなくて、一人回らない頭を無理矢理回転させる。

「ガジルくんどいて!!」

いきなり横から体を突き飛ばされる。
そこには慌てたジュビアが手の中に球体を作っていた。

「何して…」

「いいから」


ジュビアは小さな球体を長方形に変え、レビィの額に乗せた。

ぽちゃん、と小さく波を立て額に置かれたそれは、レビィの額にぴったりとおさまった。

「タオルがなかったので即席ですが…」

ふぅ、とため息を吐いてジュビアはペタリと座り込んだ。
そういえば、と思い出す。

「お前、確かもう魔力ぶっ!?」

バチィンッと平手打ちに近い勢いで口を塞がれた。
ジュビアはじと、と横目でオレを睨むと、にこっと笑った。

「さてガジルくん、運んでね」

「む?(は?)もがむあお?(どこにだよ?)」

「ジュビアの部屋」


オレの口を押さえ威圧のある笑顔のまま、ジュビアはさらりと言ってのけた








●○●○●○●○●○●○●○●


「じゃあガジルくん、レビィさんよろしくね」

「……………あぁ」


パタン、とジュビアが部屋から出て行った。

結局、エルザが怒るだろ、とか、女子寮になんか入れるか、とか反抗してみたが、頑として意見を変えないジュビアに折れて、オレは今ここ、ジュビアの部屋、そしてベッドの前で椅子に座っている。

なぜジュビアの部屋なのかというと、レビィの部屋では勝手がわからないという理由かららしい。

「いかれてるぜ…」


「う…ぅん」

心から呟くと、ベッドの中のレビィが寝返りをうった。
その拍子に落ちかけた額のタオルを直そうと手を伸ばす。




「ガジル……」



手を伸ばして、そのまま止まった。

起こ…したか?

「……レビィ?」
「……くー…」

恐る恐る声をかけてみたが返ってきたのは穏やかな寝息。


寝言、か。


「ん?寝言??」

いつかのジュビアとの仕事のとき会話を思い出す。




―お前、寝言うるさい。

―えっ!?何て言ってる!?

―グレイグレイうざったい。

―えぇ!?やっぱジュビアグレイ様大好きだから…
夢にも出てくるぐらいジュビアの愛は燃えている!!

―喜ぶな馬鹿。

―でも昔の東洋の考えでは、夢に出てきた人に自分が想われてるんだって。
グレイ様が…ジュビアの元に…

―馬鹿馬鹿しい。仕事行くぞ着替えろ。


「……いや、いやいやいや」

慌てて思考を振り払う。
余計なことを思い出して顔が火照った気がするが、無視する。

心を無にしてレビィの額にタオルをのせ直す。


「……はぁ」

額から手を離してレビィの顔の上に手を伸ばしたまま、要らない緊張が切れた瞬間、レビィがゆっくりと目を開いた。


「ん…がじる?」

「お、おう、起きたか」

熱のせいで回りきらない呂律に、少しドキッと心臓が跳ねる。
そのせいで少し吃ってしまった。

むくりとレビィが起き上がる。

「ここ…ジュびアの部屋?」

どこかふらふらと揺れる体のまま、レビィが辺りを見回す。

「あぁ、お前の部屋だと使い勝手が悪いからって、ジュビアがオレを使ってここにお前を運んだんだ」

「そっか…私、倒れて……」

説明を聞いて熱に浮かされる頭で理解できたのか、レビィがそっと自分の額に手を当てた。

「ジュビアは…?」

「ギルドにウェンディ探しに行った」

「そっか……」

「いなかったら近くの医者に薬貰って来るってよ」

そう告げると、悪いことしちゃったなとレビィが薄く笑った。

いつも気丈で明るいこいつが今弱っている姿に、不謹慎にも動機が早くなる。

汗のせいで首筋に張り付いた彼女の水色の髪がやけに目についた。


ーーーって!オレは変態か!!


「お前まだ熱あんだから寝てろ!!」

「ふわっ!?」

額を人差し指でつつくと、熱のせいで力の入らないレビィはボフンッとベッドに沈み込んだ。

レビィが起き上がった際に落ちたタオルを洗面器に入った水に浸ける。

それを固く絞りレビィの額に乗せると、オレは椅子から立ち上がった。

「……行っちゃうの?」

「んな寂しそうな声出すな。台所にいるから何かあったら呼べ」

「……ん」

ウサギか何かかと疑いたくなるくらい、レビィは寂しそうな声を出した。

傍にいてやりたいとは思うが、薬が来たときに何も食べてなくて飲めないんじゃ仕方がない。

「メシ作ったらすぐ戻って来っから待ってろ」

振り返ってそれだけ言うと、もう一度台所へ向かった。
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