原作寄り

□the Star Festival
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暗い空間に声が響く。声の主の姿はみえない。ただ声だけが聞こえる。

おまえたちは遊んでばかりで、ろくに仕事をしていなかった。罰として、2人の間に川を流そう。それぞれの岸で仕事をしっかりやりなさい。

なんの前振りもなくそういわれ、前方からどうっと水が流れてくる。
え?
抗う術もなく暇もなく、一瞬で紫苑のすぐ横に大きな川ができていた。向こう岸に目をやると、やはり状況を解せないでいるような表情のネズミがいた。
ぼくたちは……この川に隔たれてしまったのか。

真面目に仕事をしていたら、一年に一度だけ、川に橋をかけてやろう。

またどこからともなく聞こえてくる声がした。あたりを見回しても、やはり声の主は見当たらない。
どういうことだろう。罰として、ぼくとネズミは離されてしまったのか。そして、仕事をしっかりすれば一年に一度だけ逢わせてくれると……。
どうしたらいいのかわからず向こう岸のネズミをみると、ふいと背を向けて歩いていってしまった。
「ネズミ、どこにいくつもりなんだ」
小さくなる背中にそう叫んでも、ネズミには聞こえていないのか振り向くこともなく歩いていってしまう。どんどん小さくなる後姿を見つめ、紫苑はため息をついた。
仕事……そう、仕事だ。仕事をすれば、一年後にネズミと逢える。
一年に一度だけ。ずいぶんと長い間、逢えないままなのか。だいたい、なんでぼくたちは離されなくちゃいけないんだ。遊んでばかりでって、ぼくは遊んでいた覚えなんか……。
真面目に仕事をしていたら、一年に一度だけ、川に橋をかけてやろう。
声を思い出す。真面目に仕事をしていたら。ここでぐずぐずしていたら、逢わせてもらえなくなるのだろうか。
状況も飲み込めないのに仕事をしろだなんて、ずいぶんむちゃくちゃなことをいう声だ。
しゃがみこんで、川の水に手を浸してみる。
冷たい。泳いでいくのは無理そうだな。
仕事を、するしかないのか。仕事をして、一年後を待つしかないのか。
また深くため息をつくと、紫苑は立ち上がり、川に背を向けて歩き出した。


つんと袖を引っ張られる。振り向くと、そばにいた牛が紫苑の服の袖をくわえていた。
「あっ、こら、食べるなよ」
そっと鼻先を押しやって食べられかけた袖を取り返すと、紫苑は空を見上げた。
ちゃんと働いていれば、一年に一度、逢わせてくれるらしい。
それを聞かされてから、もうずいぶん経った。一年後は、もうすぐなのではないだろうか。
ネズミ、きみは今、何をしてる?


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