short dream

□あと一歩
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チャイムが鳴った。
私は急いで屋上に駆けつける。


入り口に荷物をほうり投げ、コートを着、スケッチブックと鉛筆をもって中に入る。
ほんとは絵を描くために来てるんじゃなくて、彼に会うために来てるんだけど。
扉を開けて、右足を踏み入れる。
冷たい風に包まれた、なんだか自由の身になった気がする。


…あれ、今日はいつもの所にいない。
休み、なのかな。

少々ガッカリして、フェンスの近くに歩いて行こうとした。


「よぉ、雲雀!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り替えると、

私は笑顔になった。

「今日もここでサボってたの?」
「おー。授業つまんねぇし」
「奥村くんはいい加減勉強した方が身のためだと思うけど…」

はしごを登ってたら手を捕まれて上に登らされた。
その時触れた手は、私よりも大きくて、ゴツゴツしてて、やっぱり奥村くんは男なんだなと思った。


「雲雀ってさ」
「ん?」
「温かいよな」
「…人は皆生きてるから、暖かいよ」
「でも雲雀が一番あったけえ」

「そっか……」


そんなこと、さも普通そうに言ってしまう奥村くんがもどかしい。
私が奥村くんを好きでも、きっとこの思いは彼には届かない。

「俺はさ、誰かの温もりに触れるのが怖かったの」
「うん」
「なんつーか、それが逆に羨ましい気もしたんだけどな」
「うん…」

「温もりを感じられる相手が、お前でよかったって、今すっごく思ってる」
「……そ、っか…」

「へへ、なんで泣いてんだよ」


私の涙をそっと拭う彼の長い指が、とても大人だと感じる。




好きと伝えられたなら、どれだけ楽だろう。

フラれるって分かっていても、この気持が吹っとぶことは間違いない。

ねぇ、奥村くん。

私は貴方が好きなんだよ?



届かないこの想い。

あと一歩踏み出せばいいのに、
私は弱虫。



ねぇ
せめて、あと少しだけ私と一緒にいて。


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